静岡県浜松市の浜松科学館では、2026年3月20日(金)から5月10日(日)まで、春の特別展「ユニバーサル・ミュージアム “みる”がひろがる みらいーら」を開催しています。
この展示は、これまで「見る」ことが中心だったアート作品の体験に、「さわる」ことで楽しむ新たな可能性を提案する企画です。視覚だけにとどまらない体験を通して、「見る」という行為を、触覚や想像力も含めたより広い意味での「みる」へと広げていくことを目指しています。
この記事では、展示の紹介や開催情報のほか、事前に行われたシンポジウムの様子もご紹介します。


目次


今回の展示はこんな方におすすめ!

  • 視覚に障がいがあり、これまで美術館にあまり行ったことがない方、またそのような方と一緒に楽しみたいと思っている方
  • 障がいの有無にかかわらず、触って楽しめる展示に関心がある
  • これまでの美術館とはひと味違う体験を味わいたい
  • バリアフリーや多様性に興味がある

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浜松科学館『ユニバーサル・ミュージアム』とは?

『ユニバーサル・ミュージアム』とは、国立民族学博物館の広瀬浩二郎教授が監修を務めた、「さわる」ことで楽しむアート作品の展示会です。
従来のミュージアムでは、視覚による情報の提供に偏りがちであり、その傾向は社会全体にも通じるものがあります。この展示会では、「さわる」ことを通して、そうした前提をあらためて問い直しています。

イベント情報

展示名:浜松科学館 春の特別展「ユニバーサル・ミュージアム “みる”がひろがる みらいーら」
会期:2026年3月20日(金)~5月10日(日)
時間:9:30〜17:00
会場:浜松科学館 みらいーら 1Fホールおよび常設展
住所:浜松市中央区北寺島町256-3
入場料:無料(常設展入場券の提示が必要)
常設展入場料:大人600円、高校生300円、中学生以下・70歳以上無料
問い合わせ:浜松科学館 PRチーム
TEL:053-454-0178
E-mail:info@mirai-ra.jp
公式サイト

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内覧会の様子をレポート

万博でも注目された「ふしぎな石ころ」を体験

展示室の入口前には、「ふしぎな石ころ」の体験ブースがありました。これは、特殊な振動によって持っている人の脳に錯覚を生じさせ、まるで何かに引っ張られているような感覚を味わえる、ふしぎなデバイスです。
後で聞いたところ、この感覚は最初に体験したときよりも、2回目、3回目と体験を重ねるごとに強くなるそうです。万博で紹介した際、何度も足を運んだ来場者の中には、デバイス自体が細かくアップデートされていると勘違いした方もいたのだとか。
その秘密は、回数を重ねるうちに脳内に回路が形成され、より強く感覚を受け取るようになるためだそうです。ぜひ実際に体感してみてください。

銀色に光る、球体を少し伸ばしたような形の「ふしぎな石ころ」
ふしぎな石ころを手に持っている様子。奥にはコントローラーで操作しているのが見える。

お化け屋敷?暗い展示室に響くお経の正体

展示室の入口をのぞいてみると、部屋の中はかなり暗く、耳を澄ますとお経の声が聞こえてきて、少し怖い雰囲気です。壁や床にはお経の文字が浮かび上がり、その先にはマネキン…?不気味な人影が暗闇の中にたたずんでいます。

暗い廊下の床や壁に光る文字が散らばっている
耳なし芳一の木彫りの像。左手で杖を突き、右手を前に伸ばしている。

その正体は、「耳なし芳一」の木彫りの像。小さなお子さんは怖がってしまうかもしれませんが、ぜひ怖がらず、好奇心を持って触ってみてほしい、という思いで設置されているそうです。芳一の体に触れていると、あることに気づいて少し驚くかもしれません。それが何なのかは、ぜひ実際に訪れて確かめてみてください。
ちなみに、壁や床に散らばっているお経は、芳一の体から剥がれ落ちたものです。芳一を怨霊から守ったお経は、芳一を守るバリアであると同時に、ある意味では怨霊と交流できる芳一の力を封じるバリアでもあります。ここには、そのバリアを取り払って自由に歩んでいく、という意味も込められているそうです。

神奈川沖浪裏から月まで、暗闇の中で触覚の旅

展示室の中には、石やブロンズ、石膏、樹脂など、さまざまな素材でできた彫刻のほか、立体的な世界地図など、多彩な展示物が設置されています。
そのうちの一つ、「彫刻『神奈川沖浪裏』―北斎の世界観に触れる」は、葛飾北斎の《富嶽三十六景》の中でも最も有名な、大きな波の浮世絵を、触覚で伝えられるよう立体化したオブジェです。大きくうねり、くるりと巻いた波の先を立体的に表現しているほか、元の浮世絵では、まるで波にのみ込まれているように見える富士山を、このオブジェでは実際に波の中心に置くことで表現しています。

大きな波のオブジェを横から見た様子
中をのぞくと富士山があり、まさに波に飲み込まれようとしている

もう一つの「触覚の月」は、たくさんの突起が付いた半球状のオブジェです。
これを鑑賞するときは、頭をぶつけないよう気を付けながら、目を閉じて触ってみてください。目を開けて見れば上半分がないことが分かりますが、手の届く範囲だけを触っていると、想像の中では球体として感じられるはずです。そして、さらに注意深く集中してみると、一つひとつの突起が「何か」であることに気づくと思います。こちらも、ぜひ足を運んで確かめてみてください。

たくさんの突起が付いた半球状の「触覚の月」

「見る」から「みる」へ。五感で味わうアートの世界

暗闇のエリアを抜けると、その先には明るい展示エリアが広がります。頭上には細長いカーテンが垂れ下がり、幻想的な印象です。
ここまで触覚を通して鑑賞してきたからこそ、あらためて「見る」ことの意味の変化を感じられるのではないかと思います。全身で触れ、耳で音を感じることで、「見る」から「みる」へと感覚が広がっていく。ユニバーサル・ミュージアムでは、そんな体験を味わうことができるはずです。

細長いカーテンが垂れさがり、その合間から光が差している

カーテンをかき分ける感覚や音を感じてみましょう

火焔型土器

レプリカですが、複雑な火焔型土器に触れるのは新鮮な体験です

サーバルキャットの木彫りの像

ほかにツノガエルやカピバラの像もあり、どれもかわいらしいです

地面から生えたヘルメットのようなオブジェに頭を入れる広瀬教授

頭を入れると聞こえる音がどのように変わるのでしょうか

鈴のような形をした球体の楽器を参加者が叩いている

ここでは、だれもが初対面の人とセッションを始めるそうです

前方後円墳の形のくぼみに入る らくゆくスタッフ

前方後円墳のプールには入ることができ、じんわり暖かいそうです

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シンポジウムで語られた「触覚」の可能性

今回は、内覧会の後に行われた「触覚文化コンソーシアム キックオフ・シンポジウム」にも参加しました。
今回のシンポジウムには、国立民族学博物館の広瀬浩二郎教授、株式会社村田製作所の安藤正道氏、触覚文化コンソーシアム代表の中山誠基氏、そしてモデレーターとしてHEART CATCH代表の西村真里子氏が登壇し、「触覚が開く次の文化へ」というテーマで意見交換を行いました。

中山氏は、手作りのカードをもとに、触覚・言語・関係性、研究・教育・文化・産業など、複数の領域が重なり合うことで新しい価値が生まれると語り、この場を「成果発表」ではなく「問いを共有する起点」にしたいと呼びかけました。

カードを手に話す中山氏


広瀬教授は、音やにおい、味も広い意味では“接触”による感覚であり、触覚は人間の感覚の基盤にあると紹介しました。ユニバーサル・ミュージアムの実践を通して、博物館そのものの前提や価値観を問い直す視点が示されました。

広瀬教授


また、安藤氏は3Dハプティクスデバイス「ふしぎな石ころ」を紹介し、触覚は言葉だけでは伝えきれない体験や記憶を生み出すこと、そして文化や芸術、医療、ゲームなど、幅広い分野への可能性について語りました。

安藤氏

パネルディスカッションでは、触覚を「研ぎ澄ます」のではなく、もともと人が持っていた感覚を「呼び覚ます」ものとして捉える考え方が印象的でした。展示における“さわるマナー”や、人にやさしく接するための感覚、さらに教育、ナビゲーション、リハビリ、ダンス、謎解きなどへの応用可能性も話題に上がり、触覚が文化と産業、社会をつなぐ大きなテーマであることが感じられる時間となりました。触覚を起点に、これからどのような新しい体験や価値が生まれていくのか、今後の展開が楽しみです。

ステージ上に中山氏、安藤氏、広瀬教授、西村氏の4人が並んで座っている

「ユニバーサル・ミュージアム」は、障がいのある人のためだけの展示ではなく、私たち一人ひとりにとって“触覚”の意味を問い直す機会になる展示だと感じました。
見ることに偏りがちな日常に、新たな側面を発見させてくれる企画として、多くの人に知ってほしいと思います。
興味のある方は、ぜひ公式情報も確認して足を運んでみてください。

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