いわさきちひろの優しく繊細な水彩画で知られる「ちひろ美術館・東京」(東京都練馬区)。誰もが安心してアートを楽しめる場所を目指し、休館日である6月15日(月)に「障がいのある方のための特別鑑賞会」が開催されました。
今回の試みは、「通常の来館に不安を感じている方とその介添えの方」を対象に、事前予約制(各回5組・参加費無料)で行われたものです。当日の様子と、参加者たちの温かい声を取材しました。

豊かな緑に囲まれた中庭には中野滋の彫刻作品≪ポニーといるリトルジョー≫があります
ちひろ美術館・東京とは
淡い水彩で子どもや花を描き続けた絵本画家、いわさきちひろ(1918〜1974)の自宅兼アトリエ跡に建てられた、世界初の絵本専門美術館です。東京都練馬区の閑静な住宅街にあります。
館内には、心地よい中庭を眺めながらお茶ができる「絵本カフェ」やショップもあり、大人も子どもも一歩足を踏み入れると、どこかホッとするような温かい雰囲気に包まれる美術館です。
過ごし方に合わせた「2つの時間帯」が生んだ安心感
今回の鑑賞会で最も特徴的だったのは、参加者の特性や希望に合わせて、2つの時間帯が用意されていた点です。

正面入り口に鑑賞会の案内看板がありました。午前中はしずかにたのしめる時間・午後は声を出してもOKな時間
① しずかにたのしめる時間(10:30~12:00)
![]() チェコの絵本原画を鑑賞しています | ![]() ちひろのアトリエが忠実に再現されています |
午前中の「しずかにたのしめる時間」には、車いすを利用する方と聴覚障がいのある方が参加。静寂の中で、一枚一枚の絵とじっくり向き合う濃密な時間が流れていました。
② 声を出してもOKな時間(13:30~15:00)
![]() この時間は自由におしゃべりしながら鑑賞できます | ![]() それぞれ自由に鑑賞しています |
一方、午後の「声を出してもOKな時間」には、知的障がいのある方々約15名が参加。お互いの感動を言葉にしたり、絵を見て感じたことを声に出したりしながら、賑やかで活気のある鑑賞空間が広がっていました。周りに気兼ねすることなく、自分の表現でアートを楽しめる環境が、参加者の伸びやかな笑顔を引き出しているのが印象的でした。
「近くで、じっくり見られた」――電動昇降型車いすの活躍
鑑賞会終了後に行われたミーティングでは、参加者の皆さんから喜びの声が次々と上がりました。
特に大きな反響を呼んでいたのが、美術館側から貸し出された「電動昇降型車いす」です。
車いすを利用された参加者からは、「座面の高さを調節できるおかげで、ちひろさんの繊細な絵をすぐ近くで、じっくりと見ることができて本当に良かった」という感動の感想が聞かれました。作品の細かなタッチや色彩のグラデーションを最適な目線で味わえたことは、素晴らしい鑑賞体験となったようです。
![]() 車いす昇降機に乗り移ろうとしています | ![]() 絵を近くで見ることができます |
![]() 通常の車いすで見ると、天井のライトが映り込んでしまいます | ![]() 昇降機車いすで見ると絵がまっすぐ見えるので、細かい所まで見えます |
電動昇降型車いすは、自走できませんが、介助者とおしゃべりしながら、自然な目の高さで鑑賞できます

他の参加者からも「周囲を気にせず、本当に落ち着いて見ることができた」「ぜひ平日にまたやってほしい」といった、次回の開催を心待ちにする声が数多く寄せられました。
受付・テラス
![]() 受付 | ![]() 中庭にあるテラスの様子 |
グッズ売り場・カフェ
![]() 受付の右側にショップがあります | ![]() 受付の左側にカフェがあります |
バリアフリー情報
![]() 駐車場は4台分あり、入り口寄りは障がい者用 | ![]() バリアフリートイレは1階にあります |
取材を終えて:寄り添う姿勢が広げる、美術館の可能性
「通常の来館に不安を感じている方」に寄り添い、時間帯を分け、細やかなサポート機材を用意して迎え入れたちひろ美術館・東京。
参加者の「平日にまたやってほしい」という言葉は、こうした特別な日だけでなく、障がいのある方々が「いつでも当たり前にアートを楽しめる日常」を求めていることの表れでもあります。今回の素晴らしい取り組みをきっかけに、誰もが自分らしいスタイルで芸術に触れられる輪が、さらに広がっていくことを願ってやみません。
車いすで特別鑑賞会に参加させていただきました。
展示されている絵画は比較的低めの位置にあり、そのままでも観やすかったのですが、さらに昇降式の車いすをお借りすることができ、そのおかげで、作品の細部や高い位置までじっくりと鑑賞することができました。初めてのことで、感動しました。本当に嬉しかったです。また、おしゃれな空間の中、エレベーターやバリアフリートイレなどのバリアフリー面が行き届いていたことも嬉しかったです。
ちひろさんのアトリエを再現したスペースは没入感があり、散りばめられた色々な小物にワクワクが止まりませんでした。
鑑賞会終了後の意見交換の場では、他の参加者の方々の生の声を伺うことができ、私自身大変勉強になりました。
いわさきちひろさんの素晴らしい作品をはじめ、各国のアーティストの方々の作品、そして美術館を彩る美しい緑と花々に癒やされる、本当に素敵なひとときでした。(佳山)
写真:松尾深志・小川陽一 文:小川陽一・佳山明














