近年「Webアクセシビリティ」という言葉を目にする機会が増えています。公共性の高いWebサイトやデジタルサービスでは、視覚障がいをはじめ、さまざまな障がいのある人が情報にアクセスしやすいよう、継続的な改善が求められています。
日本でも、2024年4月1日から事業者による障がいのある人への「合理的配慮の提供」が義務化され、アクセシビリティは一部の専門家だけでなく、社会全体で考えるべきテーマになっています。
しかし、そもそも「アクセシビリティ」の始まりは、いつ、どのようなものだったのでしょうか。
視覚障がい者にとってのアクセシビリティの歴史をたどると、そこには「読みたい」「学びたい」「好きな場所に行きたい」「働きたい」「楽しみたい」そして「力になりたい」といった、当事者が社会とつながるための工夫の積み重ねがありました。
この記事では、点字の誕生から、視覚障がい者教育、Webアクセシビリティ、AIやスマートデバイスの活用まで、視覚障がい者に対するアクセシビリティの歴史を振り返ります。あわせて、バリアフリー情報サイト「らくゆく」で紹介している、視覚障がい者向けのお役立ち情報も紹介します。
目次
- 点字は、当事者視点から始まった、アクセシビリティの第一歩
- 教育とテクノロジーの進歩で広がる支援~活字も、拡大や音声変換で理解可能に
- デバイス形態の多様化・高機能化~スマホへの対応やAI+音声で、より手軽に
- Webアクセシビリティの体系化~見せ方の基準を決めることで、大事な情報へのアクセスを確実に
- まとめ
点字は、当事者視点から始まった、アクセシビリティの第一歩

▲点字を書くための筆記用具「点字器」。プレートに紙を挟み、細いピン(点筆)を紙に打つことで点字の凹凸を作る仕組み
視覚障がい者に対するアクセシビリティの歴史の第一歩、それは点字の発明です。
点字は、軍が夜間の暗闇で兵士たちに命令を出すための手段として、フランスで開発されました。
その後、パリの盲学校に通っていた視覚障がい当事者の少年、ルイ・ブライユがこの暗号の存在を知り、その仕組みをもとに、指先で一度に六つの点状の突起に触れ、その凹凸の違いを文字情報として読み取る「六点式点字」を作りました。
日本においては、かつては大小二つのガラス玉を用いて文字を作る「通心玉」(つうしんだま)や、「かわら文字」などを用いて視覚障がい者との文字コミュニケーションが試みられていました。
しかし、1880年代に東京盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の教師であった石川倉次(いしかわくらじ)が、フランスの六点式点字を日本語の五十音に当てはめる研究を行いました。
これが日本式点字の始まりです。
国を越えて当事者と支援者の視点がつながり、点字が広まったことで、多くの視覚障がい者が「見えなくても触れることで文字を読む」という選択肢を得ることができるようになったのです。

▲人気絵本の点字バージョン。文章が点字に訳されているだけでなく、絵にも凹凸や紙質の変化を持たせ、触ることで物語の世界観を味わえるように工夫されている
出典:山梨県立盲学校/日本点字図書館
視覚障がい者が文字の読み書きをはじめ、日常生活でどのようなことに困っているのか、次の記事でも紹介しています。
連載:らくゆくで知ろう! 障がい・病いのこと「視覚障がいについて」
連載:らくゆくで知ろう! 障がい・病いのこと体験談で知る「網膜色素変性症」
教育とテクノロジーの進歩で広がる支援
~活字も、拡大や音声変換で理解可能に

▲紙の書籍の文字を拡大して読める、弱視の人の強い味方「拡大読書器」
点字の開発に先駆けて、日本では1878年に京都盲唖院(現・京都府立盲学校及び京都府立聾学校)が設立されました。これは、日本の視覚障がい者支援の近代化の第一歩といえる出来事です。
さらに、20世紀に入り、障がい者への教育と技術が進歩するにつれて、現場では点字の他にも拡大文字や音声など、当事者の特性に合わせたツールが提供されるようになりました。
書籍の文字を拡大して読むための拡大読書器や、印刷物の情報をCDなどの音声メディアに変換したDAISY(デイジー)などが代表的です。
これにより、点字をまだ習得していない中途障がいの当事者でも、文字情報を扱うことができるようになりました。
また、1980年代にはパソコンが盲学校を中心に視覚障がい者支援の場でも広まり始めました。
周辺機器の導入次第で、音声を頼りに操作でき、点字ユーザーでも活字の表現がしやすくなったことから、盲学校ではプログラミングにチャレンジする生徒も出てきました。
「ただ情報を受け取るだけでなく、自分の意志で情報を選択できる」という楽しみや喜びが当事者の中に生まれたのです。
出典:京都府立図書館/NPO法人鹿児島市視覚障害者協会
点字図書や拡大図書など、自分の特性に合わせた本で知識や楽しみを広げたい!という当事者の希望をかなえる施設の紹介記事はこちら
読めない・図書館に行けないと諦める前に!図書館で利用できる「バリアフリー読書」の始め方
草場純先生主催 高田馬場 日本点字図書館のクリスマスゲーム会レポート①~大盛り上がりのゲーム会編~
デバイス形態の多様化・高機能化
~スマホへの対応やハンズフリー、AI+音声で、より手軽に
2010年代には、イギリスのデザイナーであるシクン・サンやインドのエンジニア、スミット・ダガールが点字スマートフォンの開発を試みました。
点字キーボードでの入力やカメラで活字情報を撮影し、その情報をもとに画面に点字が浮き上がって情報が反映されるといったこの革新的な発想は、点字利用者の情報アクセスへのハードルをより低くするものとして世界的に注目を集めました。
しかし、小型化に重きを置いた彼らの研究は量産化にかかるコストや耐久性の改善といった課題への対処が難航し、そのままの状態で実現に至ることはありませんでした。
それでも、こうしたアイデアは決して無駄にはなりませんでした。
スミットをはじめとした技術者は、デバイス自体ではなくソフトウェアを改良することで、一般のスマホを障がい当事者が利用できるように、開発アプローチの方向を転換したのです。
その結果、音声入力や指でディスプレイを操作(ジェスチャー操作)し、音声情報として反映させるアプリをスマホにインストールするというスタイルが主流となっていきます。
現在、iPhoneに搭載されている「VoiceOver」(ボイスオーバー)、Androidの「TalkBack」(トークバック)といった、音声読み上げ機能も、その一例です。

▲点字スマートフォンの構想の一部は、PCやスマホに接続して点字のみでの情報の入出力を可能にする「点字ディスプレイ」にも採用されています
そして、2020年代に入るとAI(人工知能)を用いたツールが広まってきました。
AIと音声操作を融合させた「スマートスピーカー」や「スマートグラス」は、視覚障がいの有無を問わず使えるところも魅力です。
AIデバイス以外でも、センサーを利用して安全な歩行をアシストするデバイスも登場しており、多様な技術が当事者の暮らしを支えています。

▲スマートスピーカー「Amazon Echo Spot」

▲スイスの企業が開発した、障害物をセンサーで感知する眼鏡。手での操作が不要なため、白杖や荷物を持っている状態でもより安全な外出が可能
出典:CNN/ロレックス
最新の視覚障がい者向けのテクノロジーやサービスを実際に体験できるイベント「サイトワールド2025」のレポート記事はこちら
【サイトワールド2025レポート】視覚障がい者ライターが「いいね!」したアイテム・サービス12点
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視覚障がい者のためのスマートスピーカー活用法~基本編~
視覚障がい者のためのスマートスピーカー活用法~応用編~
Webアクセシビリティの体系化
~見せ方の基準を決めることで、大事な情報へのアクセスを確実に
視覚障がい者のアクセシビリティを支えたのは、デバイスの変化だけではありません。
既存の情報の「見せ方」にも着目したことで、その発展は加速したといえるでしょう。
1990年代以降のインターネットの発達にともない、情報の発信や収集、買い物、学習、さらには行政手続きに至るまで、暮らしにかかわる多くのことがWeb上で行えるようになりました。
一方で、Webサイトは視覚的なデザインばかりを優先して構築してしまうと、視覚障がい者にとってはかえって操作しづらいものになってしまいます。例えば、弱視者であれば背景と文字のコントラストが低いために読みづらい、全盲の人にとっては掲載されているイラストや写真の説明がないために何の画像なのか理解できないという課題が出てきました。
こうした状況に対応するために、Webアクセシビリティの体系化が始まります。
国際的には、標準団体であるW3Cが1999年にWCAGというWebアクセシビリティのガイドラインを策定しました。
日本でも、Webアクセシビリティに関する規格として、WCAGをもとに「JIS X 8341-3」が整備され、公共機関のWebサイトなどでは、この基準をもとに視覚障がい者が情報を得やすいサイトづくりが進められています。
日本においては総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」で、公的機関がWebアクセシビリティの確保・維持・向上に取り組むための手順も定められています。
Webアクセシビリティの診断で特に重視される点には、次のようなものがあります。
Webアクセシビリティの主な診断基準
- 画像に代替テキストを設定
- 見出し構造を正しく設定
- キーボードだけでも操作できるように調整
- フォーム入力時のエラー(必須入力項目の抜け漏れ、スペルミス等)が操作者に分かりやすく伝わるように調整
- 文字と背景のコントラストを一定の基準値以上に確保
- 音声読み上げソフトで意味が伝わる構造に設定
- リンク先やボタンの目的が分かる文言に調整
これらの基準は視覚障がい者だけでなく、高齢者や一時的なけがや病気のためにPCやスマホの操作が困難になった人、特定の光や音声に過敏な人など、さまざまな利用者にとっても役立ちます。
出典:水底の血/総務省
「らくゆく」のWebアクセシビリティに対する取り組みを紹介した記事はこちら
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Webアクセシビリティについてもっと学びたい人のための「デジタルアクセシビリティアドバイザー認定試験」解説記事はこちら
デジタルアクセシビリティアドバイザー認定試験で、デジタルと障がいについての理解を深めよう!
まとめ
視覚障がい者のアクセシビリティは、長い年月をかけて、当事者と支援者、技術者の知恵と工夫によって発達してきました。
しかし、現在でもタッチパネル入力の難しさや、CMSや動画作成アプリなど「情報を発信する」機能を使うことへのハードルの高さといった課題があります。
今後も当事者や支援者のリアルな希望や想いを汲んだ、新たなシステムやサービスが生まれることに注目していきたいです。
「情報を発信する」ためのアクセシビリティについての課題を、当事者の立場からまとめた記事はこちら
視覚障がい者の私がWeb記事作成で直面した「3つの壁」とその乗り越え方
らくゆくスタッフが、障がい者の技能大会「アビリンピック」を通じてWebアクセシビリティに挑む連載記事はこちら
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