2025年10月に開催された「全国アビリンピック」のホームページ部門で金賞を獲得するまでの軌跡をたどる連載、第8回です。今回は、全国大会2日目となるオリエンテーションと開会式の様子をお届けします。初めて読む方は、ぜひ第0回からご覧ください。

 


目次


6時25分のモーニングコール

全国大会の旅2日目の朝です。この日は、競技本番の前日に行われるオリエンテーションと開会式があります。競技用PCの動作確認をしたり、持参したデータを取り込んだり、会場の雰囲気を肌で感じたりする日です。つまり、明日の本番を左右しかねない重要な一日と言えましょう。

朝食については、JEEDから事前に連絡がありました。

「朝食は、6時30分からお渡しします。おにぎり弁当またはサンドイッチ弁当を、日替わりでご用意します」

お弁当という形式であれば、障がいの特性に関わらず自身の部屋でゆっくり摂ることができるというわけです。朝から人混みに突撃しなくてよいのは非常に助かります。明日はおにぎりの日で、事前に配布された資料にあった写真には、おにぎり3つと唐揚げ、そして卵焼きが写っていました。そこに紙パックの緑茶も付くという至れり尽くせり。その朝食を毎朝上司が私の部屋まで届けてくださる流れとなりました。

受け取り開始は6時30分。私は余裕を持って、目覚ましを6時28分にセットしました。

「6時28分に起き、軽く身支度を整えて6時半過ぎに受け取る。完璧だ」

そう思いながら眠りについたのですが……。

ぐっすり眠っている最中、遠くでノックの音が聞こえます。私は飛び起きました。

「えっ、目覚ましのセットを間違えた!?」と思い、慌てて返事をしながらスマホを確認。6時25分です。部屋着は乱れている。髪もたぶん寝ぐせでボサボサになっている。しかし上司を廊下で待たせるわけにはいきません。私は身だしなみを確認せずドアを開けました。

そこには、お弁当を持った上司が立っていました。

上司:「おはよう。朝食、持ってきたよ」
私:「おはようございます……でも、ちょっと早いですね……明日からは、6時30分以降に来ていただけると……」
上司:「あ、ごめんごめん(笑)」

どうやら上司は、朝食の配布開始より少し前に行っても受け取れるだろうと考え、早めに動いてくださったようです。完全に善意です。善意なのですが……

ちなみに翌日から上司は6時30分ちょうどに来てくださいました。さすがです。介助者としてのプロ意識に改めて脱帽しました。

テレビを観ながらおにぎり弁当を食べ終えたあと、私はいつものようにエナジードリンクを飲みました。

競技は明日とはいえ、今日も大事な一日です。気合いとカフェインを体内に注入し、決戦の地・Aichi Sky Expoへ向かう準備を整えました。

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金メダルを脳に焼き付ける

会場へは選手用のバスも出ていましたが、この日は現地まで歩いて向かうことにしました。

ホテルからAichi Sky Expoまでは、それほど遠くありません。朝の空気を吸いながら、軽く体を動かす。朝が苦手な私にはちょうどよい散歩です。

会場に到着すると、前日とは明らかに空気が違っていました。選手、関係者、スタッフの皆さんが行き交い、「いよいよ始まるぞ」という雰囲気に包まれています。通路を進んでいくと展示ケースがあり、そこには本大会で授与されるメダルが鎮座していました。

展示ケース内に陳列されたアビリンピックの金・銀・銅メダルと解説パネル

東京大会でいただいた金メダルも重厚でしたが、全国大会のメダルは別格の存在感を放っていました。裏面には岡本太郎氏がデザインしたアビリンピックのシンボルマークが描かれています。

私は展示ケースの前で立ち止まり、金メダルをじっと見つめました。

「そうか、これを持って帰ることになるのか…」

もちろん、口には出していません。でも、そのイメージをできるだけ鮮明に脳裏へ焼き付けました。

首に金メダルを掛けてもらう自分。上司や同僚と喜ぶ自分。会社に持ち帰って皆に見てもらう自分。妻や子の笑顔。そして、その先にあるフィンランドのサウナ……。

これらを脳に刻み込んだ私は、競技会場へ向かいました。

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第1関門、メディアを読み込ませる

会場内を進むと、ホームページ部門の競技会場を発見しました。ここで戦うのか……。

会場に入ると、机の上には選手ごとのネームプレートが置かれていました。

TOKYOと書かれたユニフォームを着た筆者が、自身のネームプレートとPCモニターが設置されたテーブルの横に立っている様子

自分の名前を見つけ、指定された席へ着席。こういうとき、自分の名前が印刷されたプレートを見るだけで、急に現実味が増します。

しばらくすると、オリエンテーションが始まりました。

競技の進め方、注意事項、当日の流れ、PCの扱いなど、さまざまな説明があります。私は一つも聞き漏らすまいと、集中して聞き入りました。

そして、いよいよ事前課題のデータを競技用PCに取り込む時間がやってきました。私の手元には、あの4枚のメディアがあります。

DVD-R 2枚。CD-R 2枚。
すべて中身は同じ。
どれか1枚でも読めれば、第1関門は突破だ。

この4枚は職場にある複数のPCで認識することは確認済みです。それでも、現地の競技PCで認識されるかどうかは別問題。ここで読み込めなかったら、完全に詰みです。

私は、一番最初に焼いたメディアを手に取りました。これは、後からデータを追記できる新しい形式でフォーマットしており、わりといい加減に作ったDVD-Rです。4枚の中で信頼度は最下位でした。しかし、私はこう思っていました。

「どうせなら、一番ダメそうなやつから試そう」

これが読めれば、それに越したことはありません。もしこれが読めなければ、他の3枚を順に試していくことになります。

記録面に指紋が付かないよう親指と人差し指でケースから慎重に取り外し、震える手でメディアをPCに入れます。待つこと数秒。

認識しました。

一目散にデータをデスクトップへコピーします。よし!

第1関門、突破。

まだ競技は始まっていません。でも、私の中ではかなり大きな山を一つ越えた感覚でした。

続いて、競技用PCの確認や設定を行っていきます。全国大会では、東京大会と違ってVisual Studio Code(VS Code)という高性能テキストエディタが使えます。Windows標準搭載の「メモ帳」だけで戦った東京大会を思うと、これはもう文明開化です。

私はVS Codeの表示を日本語化したりしながら、普段使っているPCと同じ環境に近づけるべくチューニングしていきました。一通り作業を終え、戦うための環境は整いました。あとは明日、この席で自分のすべてを出し切るだけです。

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アビリス、発見

オリエンテーションを終えて会場内を移動していると、私は視界の先に、アビリンピックを象徴するあのシルエットを発見しました。アビリンピックのマスコットキャラクター、アビリスです。

しかも、ポスターやイラストのアビリスではありません。
正真正銘、本物のアビリスです。中に(略)

私は即座にツーショット写真をお願いし、快く応じてくれました。

アビリンピックのマスコットキャラクター「アビリス」と筆者が並んで写っている写真

その後、今回の遠征に同行してくださっているカメラマンのテラさんと合流しました。

上司、テラさん、そして私。明日の本番に向けたチームが、ここで揃いました。

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開会式が始まる

オリエンテーションが終わると、次はいよいよ開会式です。

会場内で東京都の選手団が座る場所を探し、上司と二人で着席。周囲を見渡すと、全国各地から集まった選手の皆さんが、それぞれの都道府県の席に座っています。

「本当に全国大会なんだな……」

東京大会とは違う規模と熱気に、少しずつ気持ちが高まっていきました。
開会式が始まり、大きなスクリーンに映像が流れます。愛知の魅力、会場の様子、そしてアビリンピックに挑む選手たちの姿。そして以下のパワーワードが発せられました。

「日本の中心、愛知。」

大学時代を名古屋で過ごした人間として久々に出会うこの概念。

日本全国(北海道から沖縄)の各拠点から、中心に位置する愛知へ向けて矢印が集まっているイラスト

日本の中心は愛知。間違いない。この中心地で、明日、北海道から沖縄までの代表選手が技能を競うというわけです。

そして、過去のアビリンピックの映像が流れました。競技に挑む選手たち。表彰され、笑顔を見せる選手たち。観ているうちに、どんどんテンションが上がってきます。

そして、想像していなかった展開になりました。国歌斉唱です。
起立できる人が起立した後、君が代が流れました。

この瞬間、私は思いました。

「アビリンピックは、紛れもない五輪なのだ」

全国から代表選手が集まり、開会式が行われ、国歌を斉唱し、メダルを目指して技能を競う。これは完全にオリンピックです。頭では分かっていたつもりでしたが、認識が甘かった。もちろんしっかりと君が代を斉唱しました。

その後、大村愛知県知事からのご挨拶や、石破首相からのメッセージも紹介されました。

私は人一倍、式典で厳粛な気持ちになるタイプの人間です。全国から集まった代表選手の一人として、この場に座っている。明日、ホームページ部門で各都道府県の選抜選手と戦う。その重みを、静かに受け止めていました。

そして開会式が終わるころには、緊張と同時に「早く戦いたい」という気持ちが、じわじわと湧き上がっていました。

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親子丼を食らう

開会式を終え、上司、テラさん、私の3人で早めの夕食を食べに行くことになりました。向かった先は、中部国際空港セントレアです。

空港にはさまざまなお店があり、色々と見て回り、最終的に名古屋コーチン料理で有名な鶏三和に決まりました。

注文したのは、鶏料理の定番、親子丼です。

お盆に乗せられた温泉卵付きの親子丼とスープ、梅干しのセット

ふわふわの卵。名古屋コーチン特有の濃厚な鶏肉。香りのよい出汁。そして、ご飯との相性。一口食べて思いました。

「競技前夜の夕食として相応しい、正しい食事だ」

昼にあんかけスパ、夜に台湾まぜそばを食べた前日とは違い、親子丼は正当な食べ物です。1891年に産声を上げたと言われている由緒正しい日本食です。これを食べて健康を保った末裔が私たち。身体に悪いわけがない。明日の競技に支障が出るわけがない。3人で親子丼を食べながら、明日のことについて話しました。

飲食店でテーブルを囲み、親子丼を前に笑顔で撮影する3人の男性

食事を終えて解散し、各々のホテルや自室に戻りました。部屋に戻った私は、なんとなくMacBookを立ち上げました。事前課題の作品を開きます。

半透明のメニュー。アクセシブルなカルーセル。何度も直したアニメーション。これらは既に競技PCにコピー済です。

画面を見ていると、少し心が落ち着く一方で、武者震いのような感覚もありました。

「ついに君たちを世に出す時が来たな……」

テレビはもう見飽きていたので、普段観ているYouTubeチャンネルを流しました。旅先でも日頃のルーティーンを行うと、自宅にいる感覚を取り戻せます。

明日は大会当日。

金メダルを脳に焼き付けた。
メディアも読み込めた。
PCの環境も整えた。
名古屋コーチンも食べた。
あとは、明日力を出し切るだけです。

私は早めに布団へ入り、やさしい音楽を再生したスマホを枕元に置き、眠りにつきました。

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次回予告

ついに全国アビリンピックの競技当日です。全国から集まった強豪を前に、私は90分間で自分のすべてを出し切ることができるのか? そして、脳に焼き付けた金メダルを持ち帰ることができるのか?

次回、いよいよ決戦本番。乞うご期待!

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関連リンク


アビリンピック 公式サイト(外部リンク)
鶏三和 公式サイト(外部リンク)