週刊連載エッセー 9月27日 (月曜日)
秋のある日の午後、住宅街を歩いていたときです。突然塀の中から
「あぶないよ、そんな高い枝は」という老男性の声。
「大丈夫ですよ。今日はどうしてもこの枝を切ります。私がやらなくて誰が切るんですか」と老女性の声。
「でも脚立から落っこちたら大変だ」と老男性。
「落ちたらトオルに電話してください」。どうも息子さんの名前らしい。私は心配しながら歩き出しましたが、このご夫婦の日常を想像。しゃきしゃき行動的な妻と、力仕事が苦手な夫。塀と木の葉でお顔は見えませんでしたが、声の表情に阿吽(あうん〕の呼吸を感じ、ご夫婦が長い月日で培ってきた絆の強さを思いました。
歩きながら、何か心がほのぼのと、温かくなりました。
・イラスト/いなだ 牧子
著者・並木 きょう子/東京都在住。フリーライター。人の生き方を独特の視点で描く人物ルポ、軽妙なエッセイ執筆。著書にエッセイ「ごちゃまぜ同居行進曲/主婦の友社刊(テレビドラマ化)」「300字の小さな幸せレシピ/アップオン刊」ほか多数。
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※新しいエッセイは毎週月曜日に掲載します。
※8月23日号 長男が、大人の背丈になったとき
※8月30日号 食卓を片付けながら
※9月 6日号 庭のブドウの樹
※9月13日号 ある年の初秋、結婚披露宴で
※9月20日号 「お月さま」に祈ります