週刊連載エッセー 10月18日 (月曜日)
秋も深まったころ、仕事を兼ねてニューヨークに行ったときのことです。宿泊した中級のホテルはアメリカ国内の団体客で混んでいました。夕方のロビーも人があふれ、私は80代ぐらいの男性と、ソファで隣り合わせに。
男性は背広姿で姿勢よく座っています。少し離れたエレベーターが開き、中から奥さんらしき老女性が出て来ると、男性はスクッと立ち上がり、満面の笑顔で、「今夜の君は美しい!」と言ったのです。夫人は光沢のある緑色のワンピースでしたが、アイロンがなかったのか少しシワが残っていました。考えました。私の夫は80歳過ぎても、あんな言葉を言ってくれるだろうかと。
シワのドレスの老婦人が、とってもきれいに見えました。
・イラスト/いなだ 牧子
著者・並木 きょう子/東京都在住。フリーライター。人の生き方を独特の視点で描く人物ルポ、軽妙なエッセイ執筆。著書にエッセイ「ごちゃまぜ同居行進曲/主婦の友社刊(テレビドラマ化)」「300字の小さな幸せレシピ/アップオン刊」ほか多数。
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※新しいエッセイは毎週月曜日に掲載します。
※8月23日号 長男が、大人の背丈になったとき
※8月30日号 食卓を片付けながら
※9月 6日号 庭のブドウの樹
※9月13日号 ある年の初秋、結婚披露宴で
※9月20日号 「お月さま」に祈ります
※9月27日号 「この枝を切ります」
※10月4日号 多摩川の鉄橋で
※10月11日号 〝新米の力〟