週刊連載エッセー 10月25日 (月曜日)
わが家は鍋料理が大好きで、ときどきブームが起きます。やれ豆乳鍋だ、キムチ鍋だと。数年前にはふたの高さが26センチもあるとんがり帽子型のタジン鍋にも凝りました。結局今は普通の土鍋に戻り、味も薄味、好みのタレで。
鍋料理は不思議です。湯気が立つといつもの食卓の何かが変わります。「そのへん火が通っているよ」と、まず会話がはずみます。周りにつられて食欲もすすみます。
それにもうひとつ。湯気を通すと、鍋で温かくなっているせいでしょうか。家族が幸せそうないい顔に見えます。中年太りの夫も、いつもよりハンサムに。
こんないろいろを、私はひそかに食卓の〝湯気マジック〟と呼んでいます。
今夜はタレに薬味を利かせた鍋にしましょう。
・イラスト/いなだ 牧子
著者・並木 きょう子/東京都在住。フリーライター。人の生き方を独特の視点で描く人物ルポ、軽妙なエッセイ執筆。著書にエッセイ「ごちゃまぜ同居行進曲/主婦の友社刊(テレビドラマ化)」「300字の小さな幸せレシピ/アップオン刊」ほか多数。
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※新しいエッセイは毎週月曜日に掲載します。
※8月23日号 長男が、大人の背丈になったとき
※8月30日号 食卓を片付けながら
※9月 6日号 庭のブドウの樹
※9月13日号 ある年の初秋、結婚披露宴で
※10月4日号 多摩川の鉄橋で
※10月11日号 〝新米の力〟
※10月18日号 今夜の君は美しい!