週刊連載エッセー 11月1日 (月曜日)
電車で隣の席に座っている老女性の手だけ見えました。顔は見えません。いわゆる日本のお母さんの手でした。手の甲にはシワが寄り、指も節がゴツゴツして。
この手で、どれだけのお茶わんやお皿を洗ってきたのかと思いました。この手は家族みんなの喜ぶ料理も毎日作ってきたのでしょう。洗濯もそうじも。ハンドクリームをつけるヒマもなく家族のためにコツコツと。お母さんの手はありがたいなと思ったら胸が熱くなりました。
私もあまり立派な主婦ではありませんが、年齢なりに日本のお母さんの手に近づいてきました。これからの日々、家族や誰かのためにこの手を使い続けていけますように。
下車するとき、老女性の手に黙礼しました。
・イラスト/いなだ 牧子
著者・並木 きょう子/東京都在住。フリーライター。人の生き方を独特の視点で描く人物ルポ、軽妙なエッセイ執筆。著書にエッセイ「ごちゃまぜ同居行進曲/主婦の友社刊(テレビドラマ化)」「300字の小さな幸せレシピ/アップオン刊」ほか多数。
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※新しいエッセイは毎週月曜日に掲載します。
※8月23日号 長男が、大人の背丈になったとき
※8月30日号 食卓を片付けながら
※9月 6日号 庭のブドウの樹
※9月13日号 ある年の初秋、結婚披露宴で
※10月4日号 多摩川の鉄橋で
※10月11日号 〝新米の力〟
※10月18日号 今夜の君は美しい!
※10月25日 〝湯気マジック〟