週刊連載エッセー(3月21日)
お彼岸ですね。私の祖母は七十一年前の3月、東京大空襲で亡くなりました。
空襲後、娘である私の母が疎開先から戻って祖母を捜し回り、生き残った数少ない近所の人の話を聞くと、祖母は赤ちゃんを抱いていたというのです。身内にも近所にも赤ちゃんがいないので、誰かに預かったようです。力尽きた若い母親に託されたのでしょうか。赤ちゃんの運命はわかりません。
が、私は思うのです。おばあちゃん、すごいねと。自分が生きるか死ぬかのときに、赤ちゃんを預かって抱っこして走ったのねと。私にできるかと。
私は戦後生まれで、祖母を知りません。けれどそのときの祖母を思うと、何か困難に向かうときに勇気がわいてくる気がします。
祖母は51歳でした。
・イラスト/いなだ 牧子
著者・並木 きょう子/東京都在住。フリーライター。人の生き方を独特の視点で描く人物ルポ、軽妙なエッセイ執筆。著書にエッセイ「ごちゃまぜ同居行進曲/主婦の友社刊(テレビドラマ化)」「300字の小さな幸せレシピ/アップオン刊」ほか多数。
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※新しいエッセイは毎週月曜日に掲載します。
※8月23日号 長男が、大人の背丈になったとき
※8月30日号 食卓を片付けながら
※9月 6日号 庭のブドウの樹
※9月13日号 ある年の初秋、結婚披露宴で
※10月4日号 多摩川の鉄橋で
※10月11日号〝新米の力〟
※10月18日号 今夜の君は美しい!
※10月25日号 〝湯気マジック〟
※11月 1日号 日本のお母さんの手
※11月 8日号 紅葉を楽しみに
※11月15日号 花の〝花道〟に
※11月29日号 ボージョレ・ヌーボーの季節
※12月 6日号 年の瀬に向かって
※12月13日号 母の口紅
※12月20日号 おつき合いは、シンプルに
※12月27日号 急なお客さまに……
※ 1月 3日号 新年の抱負
※ 1月10日号 名前で呼んでください
※ 1月17日号 義姉のピアノ
※ 1月24日号 日本の雪
※ 1月31日号 全員が、天ぷらうどん
※ 2月 7日号 バレンタインデーの季節です
※ 2月14日号 瀬戸の夕焼け
※2月21日号 あたりまえの毎日が……
※2月28日号 ひな祭りの前夜
※3月 7日号 東日本大震災から、11年です
※3月14日号 山菜から春は香って