“雪と着物とコシヒカリ”の町「越後十日町」に『へぎそば』があります。越後十日町(新潟県十日町市)が京都西陣と並ぶ織物の産地であるがゆえに生まれた食の文化の一つです。ツルっとした舌触りと喉越し、「しこしこ」というべきか「もくもく」と言うべきか、弾力のあるしっかりとした腰の強さ・歯ごたえ、そして「蕎麦と磯」の香りが魅力のそばです。 いま、「へぎそば」は美と健康をもとめる食として注目されています。
「へぎそば」って・・・何?
「へぎ」は「ざる」「せいろ」と同様、器の名称です。剥ぐは当地の方言で「へぐ」と言います。木を剝ぎ取り板の周りに縁をつけた器にしたものが「へぎ(片木)」ですが、方言の「へぐ」が「へぎ」に変化したと言われています。この「へぎ」という器に、つなぎに布海苔という海藻を使ったそば(布海苔そば)を盛りつけます。「へぎそば」とは、“布海苔そば”を「へぎ」という器に盛りつけたそばのことを言います。
※布海苔のほかに小麦粉を“つなぎ”として入れているお店もあります。
へぎ蕎麦と着物の産地
「へぎそば」の産地は着物の産地です。布を作るため、糸を保護したり撚りをかける際に液状の糊を通します。この液状の糊に布海苔(布糊)が使用されますが、布海苔は着物の産地において、とても大切であり、とても身近な存在であったようです。古くから海辺の地域から、山間部にまで布海苔の行商が来ていた(6代目繁蔵 談)ということからも身近な素材であったことがうかがえます。この身近であった素材(布海苔)は食材でもあり、そばのつなぎとして使用されることになったことは容易に想像できます。「へぎそば」は盛り付け方も着物づくりの影響があったようです。「へぎそば」は麺を一口大に束ね器に並べますが、この形が着物(織物)の糸を手繰り、束ね並べた形そのものです。
まさに、着物の産地、着物の文化が生んだ食文化の一つが「へぎそば」(文化庁認定 100年フード)です。
そば粉の栄養
蕎麦は、古くは山伏たちが蕎麦を常に所持し、食したり、丸薬を作って利用したと言われていますが、その豊富な栄養や効果は経験だけでなく研究が進み注目されています。ポリフェノールの一種“ルチン”は代表的な栄養素ですが、ほかにも注目すべき栄養素が豊富に含まれています。
〇ルチン・・・穀物で唯一と言われるポリフェノールです。ポリフェノールは抗酸化物質です。
〇良質なたんぱく質・・・バランスの取れた必須アミノ酸(アミノ酸スコア92)を含んでいます。
〇ビタミン類・・・ビタミンB群(B1,B2,ナイアシン,パントテン酸,B6,葉酸,K)を豊富に含んでいます。
〇ミネラル類・・・他の穀物に比して多くのミネラル類(カリウム,マグネシウム,リン,Fe,Cu等)を含んでいます。
〇食物繊維・・・不溶性食物繊維を含んでいます。不溶性食物繊維は、胃や腸に長時間滞留する特徴があります。
布海苔の栄養
布海苔は海藻です。ビタミン類やミネラル類が豊富な海藻は、美容食・健康食とも言われ、化粧品や健康補助食品にも用いられています。低カロリーなためダイエット食として広く食されています。あまり知られていませんが、布海苔はCMなどで耳慣れた「タウリン」を含む食素材として注目されいます。
※日本では、化学合成されたタウリンが医療用医薬品や栄養ドリンクなどに使用されています。
〇タウリン・・・様々な生理・薬理作用を介して生体の恒常性維持に関与。人間も体内合成しますが、体外から積極的に摂ることが求められている栄養素と言われています。
〇アルギン酸・・・水溶性食物繊維。アルギン酸は「お腹の調子を整える食品」「コレステロールが高めの方に適する食品」として厚生労働省は特保に指定しています。
〇フノラン・・・水溶性食物繊維。糖質やコレステロールの吸収をゆっくりと行い、また対外にも排出する作用があります。
〇ビタミン類・・・ビタミンAやK、さらにはBも豊富に含んでいます。抗酸化力を有するCやEも含んでいます。
〇ミネラル類・・・マグネシウムを豊富に含み、また、不足しがちな亜鉛あるいは微量ミネラルのマンガンを含んでいます。
まとめ
そば粉に入っている多くの成分は水溶性です。また、布海苔に含まれるタウリンも水溶性です。豊富な栄養が蕎麦のゆで汁に流れ出ています。是非、そば湯をお忘れなく飲みましょう。日本人は第6の栄養素と言われる食物繊維の摂取が不足していると言われています。「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」は豊富な“へぎそば”、人間の恒常性を保つと言われるタウリンをとれる“へぎそば”、小麦粉を使わないグルテンフリーの“へぎそば”は、日本人の食生活の救世主かもしれません。
(注)布海苔と小麦粉を“つなぎ”としている「へぎそば」もございます。必ずしも「へぎそば」はグルテンフリーであるものではありません。
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文:豊ウケ
写真提供 繁蔵・田麦そば