第5回目(最終回)
バリアフリーと訪問歯科の関わり
第5回目(最終回)
最終回となる今回は訪問歯科について見ていこうと思う。これまでの連載の中で車いすユーザーの歯科受診の増加と、それに伴う問題点などを述べてきたが、自宅や施設にいながら歯科医師や歯科衛生士の治療を受けることができる訪問歯科は車いすユーザーにとっても心強い存在であろう。
しかし、訪問診療を実施する歯科診療所は、2017年の調査では全国で約69000ある診療所のうち、約2割に相当する約15000か所に過ぎず、都道府県別の実施率では最も高い長崎県で約41%、最も低い沖縄県で約14%と地域差が大きいことも明らかにされている。
さらに、平成20年度に在宅または社会福祉施設等における療養を歯科医療面から支援する目的で創設された「在宅療養支援歯科診療所」の数は2017年4月の時点でおよそ10000であり、訪問診療で使う治療機器やスタッフの確保などの問題もあって対応できる歯科診療所がなかなか増えない現状がある。
訪問歯科は治療を行うために携帯型デンタルユニットやポータブルエンジンといった歯を削ったりする機械類のほか、ポータブルのレントゲン撮影機器や光照射器などの検査・治療機器も必要である。さらに、安全に診療を実施するために血圧計や酸素飽和度を測るパルスオキシメーター、聴診器なども欠かせないが、自宅や施設という診療環境の衛生面の問題などもあり、実際に歯科診療所で行うような精密で質の高い治療が難しいケースも少なくないのが実情である。
図1、2に示したように、歯科の受診患者は80歳を超えると訪問診療の割合がグッと増加する。つまり、80歳を超えると車いすでの外来歯科受診が困難になる患者が増えることを意味しており、より質の高い治療を求めるならば、80歳になるまでに悪い歯や歯ぐきの治療はバリアフリーの歯科診療所に車いすで出向いて終わらせておくべきであろう。
厚生労働省の資料によれば、要介護者の8割以上が何らかの歯科治療または専門的な口腔ケアを必要とするにも関わらず、実際に治療を受けたのは3割程度に過ぎない。
平成30年の診療報酬改定で「質の高い在宅医療の確保」「ライフステージに応じた口腔機能の推進」の方針が打ち出されたように、国としても訪問診療の充実化を図る動きは、現在もなお続いている。
今後、より多くの歯科医院が医科や介護との連携を強化しながら訪問診療に取り組む体制が整うことに期待したい。
【参考資料】
厚生労働省:平成29年医療施設調査
厚生労働省:平成30年度診療報酬改定の概要(歯科)
文/島谷 浩幸
医療法人 恵泉会 堺平成病院 歯科科長
https://sakaiheisei.jp/
■シリーズ■
第1回目 バリアフリー歯科医院の盲点レントゲン撮影できますか?
第2回目 車いす対応診療台が役立っています
第3回目 バリアフリー歯ブラシとは?
第4回目 車いすで快適なうがいを
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