「誰もが笑顔で過ごせる未来をつくる」ため、今アクティブに活動を続ける人を紹介するインタビューシリーズ「みらい人(みらいびと)」。今回は障がいのある子どもたちが出演するファッションショーを企画・開催した鳥居百舌(とりい・もず)さんにお話を伺ってきました。
目次
1 「前例がないなら作ればいい」
子どもたちの夢の実現に全力疾走した日々
2 障がいに偏見を持っていた自分を変えてくれたSNS
3 夢は“世界進出”とポケモンコラボ!
9月には念願のファッションショー出演も
「前例がないなら作ればいい」
子どもたちの夢の実現に全力疾走した日々
2023年5月21日(日)に、群馬県の太田市にて、障がいのある子どもだけの古着ファッションショー「サステクルーシブコレクション」を開催した、鳥居百舌さん。準備期間中に紆余曲折ありながらも、無事にファッションショーは成功を収めました。
「人生初めてのイベント企画でショーが成功するか不安だったけど、たくさんの人の協力もあり無事大成功を収めることができて良かったです。モデルさんがランウェイを歩いて待機室に戻ってきた時、みんなすごくキラキラしていて『このショーをやって良かった!』と心から思いました」とショーを終えて振り返る百舌さん。
百舌さんがファッションショーの企画を発案したのは、自身の経験がきっかけでした。
「モデルとして活動しようと、いろいろなファッションショーやイベントに応募をしてみたのですが、どれも『車いすの前例がないから』とか『障がいがあるから』と断られてしまって、何度も悔しい思いをしたんです。だから、『前例がないなら、私が作ればいい!』と考え、ファッションショーを企画しました」
今回、障がいのある子どもをモデルとしたのも、「将来の夢をあきらめてほしくなかったから」。
「障がいがある子どもたちの中にも、将来モデルさんになりたいという夢がある子がたくさんいます。その子たちがファッションショーに応募した時、私と同じように悔しい思いをしてほしくなかったので、子どもたちを集めることにしたんです。もっと大きな夢を持っていいんだよって伝えたくて」。
出演したモデルは、下は4歳から上は19歳まで。計18人のモデルが出演しました。応募にあたり、親に反対された人もいたそう。「障がい者を見世物にするなと言う親もいて、親が子どものやりたいことに蓋をしてしまうケースもありました。当日のキラキラしたモデルさんを見て、何か思ってくれたら良いなと思いますね」と百舌さんは言います。
サステクルーシブファッションショーの一場面。
「ショーのコーディネートをしたのは、私と母と古着屋さんの3人。母は前職でアパレル関係の仕事をしていました。私も子どもの頃からコーデには厳しくチェックしてもらっていて、ダサい服を着るとめっちゃ怒られます(笑)」。
今回のファッションショーのテーマである「サステクルーシブ」とは、「サステナブル」と「インクルーシブ」を合わせたオリジナルの造語。自身も古着を愛用していることから、服の再利用というサステナブルな視点を取り入れたファッションショーとしています。
とはいえ、モデルそれぞれの体の特性を考えて選ぶのは、かなり苦労したのだとか。特に子どもの古着は大人のものよりも数が限られているため、1日かけて古着店に滞在し、試着なしで2パターンのコーディネートを完成させたそう。
服だけでなく、会場選びやモデル募集の呼びかけなど、さまざまな人たちの協力を経て開催にこぎつけられました。
「最初は商店街でのイベントほどの規模感で考えていましたが、クラウドファンディングをはじめ、たくさんの方が協力してくれて、大きな会場を借りられるほどの立派なファッションショーを開催することができました。開催までは私も母もエネルギーをギリギリまで使ってどうなることかと思ったけど、モデルの子どもたちが楽しみにしてくれるから頑張れました。最後まで全速力で駆け抜けましたね(笑)」と百舌さん。
周囲にいる人の優しさや励ましに、改めてありがたさを感じたのでした。
障がいに偏見を持っていた自分を変えてくれたSNS
百舌さんは総排泄腔外反症(そうはいせつこうがいはんしょう)と脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)という難病を抱えて生まれ、今も手術を重ねながら暮らしています。
「普段、外に出る時は車いすで、家では装具をつけて歩いていることが多いです。動くと元気そうに見えるけど、生まれつき肛門がなくストーマ(人工肛門・人工膀胱の総称)をつけていたり、膀胱機能障がいがあったりと、脚よりも内部障がいがつらいです」。
最近では月経時に経血が出せず、「死にたくなるような痛みだった」と語る百舌さん。病院で経血を抜くための処置をしましたが、今でもつらい時があるそうです。
そんな百舌さんがインフルエンサーとして開花したのは、1年半前。
「以前はSNSに写真を上げても、自分に自信がなくて上半身しか写していなかったんです。でも母に『自分が思っているほど人は気にしてないよ』と言われて、試しに『生後ドクターに歩くことが不可能だと宣告された難病2個持ちの車いす女子が本気出してみた結果』という動画を上げてみたら、90万回再生されて。本当にびっくりしました」。
動画がバズったことで、一気にフォロワーが増えた百舌さん。今は主にTikTokとInstagramを中心に投稿し、TwitterとYouTubeは育成中なのだとか。
そんな百舌さんは、SNSを始めてから「毎日が楽しくなった」と言います。
「小さいころから芸能人にあこがれていたこともあって、駅で『TikTokの人ですよね?』とか声をかけられると、やっぱりうれしいです。思春期のころに人とコミュニケーションをとることが苦手になってから、自分の障がいに対して自身が偏見を持ってしまっていて、自信が持てませんでした。でもSNSでたくさんの人に応援してもらえるようになってからは、世界が広がりましたね。もっと早く始めていればよかったと思うくらい。勧めてくれた母には、感謝しかないです」。
さらに、さらなる個性を磨くため、大学生になってから起業にもチャレンジ。お母さんと共同代表で『Mary(メアリー)』という会社を立ち上げました。
「私の誕生日がクリスマスで、聖母マリア様のようなおおらかな心でお互いを思いやれる社会になるように、という意味を込めて『Mary』という社名にしました。モデルの仕事やイベントの出演などを受ける個人事務所で、私は代表であり、所属モデルです。大学で経営学を勉強しているので、学んだことを実践できて、すごく良い経験になっています」。
小さい頃からずっとサポートしてくれるお母さんを「師匠」と語る百舌さん。今回のファッションショーでも、お母さんがすべての窓口を引き受け、仕事の合間に必死で準備を進めてきました。「何でも好きなことをやってほしい」と、百舌さんを温かく、時に厳しく支えてくれています。
「子どもの頃から派手な服を着ていて、ファッションや感性は母の影響が大きいです。母自体障がいを隠すという感じがなく、親戚にも障がいに偏見がある人はいなかったので、良い環境だったと思います」と百舌さん。
また、撮影中にちょうどお父さんも帰宅し、インタビューに答える百舌さんから離れたところで、変顔をして緊張を和らげてくれるという一幕も。お父さんはお母さんの再婚相手で実父ではないのですが、いつもそっと見守ってくれているのだとか。百舌さん曰く「障がいがあるから危ないとか、束縛とかもしない。ほど良く放っておいてくれる」のが、お父さんの良いところなのだそうです。
夢は“世界進出”とポケモンコラボ!
9月には念願のファッションショー出演も
ファッションショーを成功させた百舌さんの次の目標は、自身がファッションショーに出演すること。実は9月29日(金)に東京ビッグサイトで開かれる「国際福祉機器展」にて、ファッションショー『NextUD JAPAN 2023』のモデルに選ばれました。
「たくさんの人の中から選んでいただき、ようやく夢の一歩を進めることができました。これを機に、みんなの前例を作れるよう、もっとお仕事を頑張りたいです」と百舌さんの意気込みは十分です。
自信がなかった頃の自分を振り返り、「今も、自分の体との調整が大変で、しんどくて一日寝ている日もあります。でもSNSを始めてから、できることに目を向けられるようになりました。『障がいは個性』という言葉はあまり好きではないけれど、私自身に関しては、だんだん『障がい』も一つの私なのかな、と思えるようになりました」と言います。
百舌さんの夢は、パリコレやミラノコレクションなどの世界的なファッションショーへの出演と、大好きなポケモンとコラボすること。夢のために、英語を勉強しているのだとか。自身の活躍が前例となるよう、百舌さんは今日もSNSで明るい笑顔を発信しています。
「この姿で街中を歩くと笑われたり、マネされたりするけれど、その人たちは夜になったらそんなこと忘れてると思うんです。自分が思っているほど、他人は自分のことを気にしていない。思っているより、世界は広いということをみんなに伝えたいですね」。
鳥居 百舌(とりい・もず)さん
20歳の大学生。総排泄腔外反症、脊髄髄膜瘤の難病を抱える人気インフルエンサー。TikTokは約2.6万人、Instagramは約10万人のフォロワーが。所属事務所『Mary』を立ち上げ、代表兼所属モデルとして活動中。
▼TikTok
▼Instagram
▼Twitter
▼YouTube ちどり足のもず
写真:鈴木智哉 取材・文:関 由佳