近年のお部屋探しは、住宅情報サイトから検索することが主流。検索条件に「廊下が広い」「段差なし」など車いすユーザーに必要な条件で検索ができず、物件探しに苦労している方も多いかと思います。
 今回は、不動産会社に相談するポイントや、実際の物件探しをした車いすユーザーの声をまとめました。記事の後半では、障がい者や高齢者など住宅弱者向けの不動産会社、メイクホーム株式会社・石原幸一代表取締役社長にインタビューしましたので、参考にしてみてください。


 

バリアフリー物件は家賃14万円~

 

 冒頭でも書きましたが、車いすユーザーはネットで希望の物件を探すのが難しいので、対面で相談できる街の不動産会社の店舗に足を運ぶのがおすすめです。
ただ、バリアフリー化された物件は家賃が14万円以上のところが多いので、家賃の上限を伝えたうえで、以下の3点を相談してみましょう。

 1.室内外の段差の場所と高さ(段差解消スロープで解決できる高さか)
 2.エレベーターや玄関、室内などの扉の幅と扉の形状(開き戸か引き戸か)
 3.洗面台とキッチンの造り(膝が入るかなど)

 そして、車いすを室内で利用する場合は、「キズが付く」「騒音トラブルになる」などと断られるケースもあるので、タイルカーペットやクッションフロアなどで対策をする旨を伝えると、話を進めてもらえる可能性が高くなります。

 

地震を経験したので、川や海から遠くがいい

 

 では、実際に物件探しを経験した車いすユーザーの記事をご紹介します。
 駅や買い物の便利さだけでなく、災害時も考慮している方や、音声で家電を操作できるように工夫をしている方もいらっしゃいます。

【事例1】
 複数の公共交通機関。徒歩圏内に、スーパー、薬局、ショッピングモール、病院がある。
 https://rakuyuku.com/?pageid=533&actmode=BlogPageDetail

【事例2】
 地震を経験したので、川や海が遠くて1階が必須条件。
 https://rakuyuku.com/?pageid=530&actmode=BlogPageDetail

【事例3】
 Alexa/Googleを駆使して家電は全部声で操作でき、ベッドからでもインターホンに出られるようにした。
 https://rakuyuku.com/?pageid=543&actmode=BlogPageDetail

 

内見時には、タイヤを保護するグッズが必須

 

 内見の際は、車いすで室内に入れるか、不動産会社の担当者に立ち会ってもらえるかを確認しましょう。
 現地に行ったら、共有部分の廊下に段差があった、エレベーターが狭かった、ということがあります。不動産会社は物件の隅々を全て把握している訳ではありませんし、車いすユーザーに対する知識を持っている人は少ないです。立ち会ってもらうことで、その場で問題点を伝えることができます。
 内見に行くときは、新聞紙やホイルソックス(タイヤカバー)やタイヤを拭く雑巾などを用意し、汚れやキズ防止対策もお忘れなく! 

 

障がい者の“住まいの問題”に取り組む
「メイクホーム株式会社」

 

 ここまでは、街の不動産会社で探すことができる車いすユーザー向けのアドバイスでしたが、店舗が2階で入れない、交通機関の利用が困難などの理由で、店舗に行けない方もいらっしゃると思います。
 そんな障がい者を多数受け入れている、不動産会社『メイクホーム株式会社』を紹介。
 関東1都3県を対象に、障がい者や高齢者などの住宅弱者が抱える“住まいの問題”に積極的に取り組んでいます。社長である石原さん自身も視力に障がいがあり、身内に障がい者がいるスタッフも在籍しているため、相談しやすいのが最大の特徴。

 メイクホーム株式会社の石原幸一代表取締役社長に、始めたきっかけやサービス内容など伺いました。

石原幸一社長の写真メイクホーム株式会社社長・石原幸一さん



“完全に困った人だけを助ける”不動産屋

 

障がい者(車いすユーザー)をターゲットに、不動産の仲介を始めた経緯を教えてください。

 以前、母体の会社が区画整理の仕事を行っていたときに、木造建築の解体現場の清掃員として知的障がいや発達障がいの人を雇っていました。解体作業がすべて終わった後、清掃を担当してくれた障がい者は、大手ゼネコンに再就職できたのですが、住むところがありませんでした。そこで私が宅建の資格を取り、住むところを紹介したのが最初です。
 そして、今から20年くらい前に障がい者を対象に不動産の仲介を始めたのですが、車いすだとそもそも不動産の店舗に入店できない。また、目や耳が不自由な人もお部屋探しに苦労していることがわかりました。なので、“完全に困った人だけを助ける”という不動産屋にしました。
 スマホが見られない、目が見えない耳が聞こえない高齢者の方とか、車いすの人…。情報接触から乗り遅れた人たちだけをターゲットにしています。

車いすユーザーから、どのような相談が多いのでしょうか?

「バリアフリーの物件が見つからない」「不動産屋の店舗に入れない」「(移動手段が無いので)どうやって行ったらいいか?」という相談が多いです。ほとんど完全送迎なので、お客様のところに出向いて行って、家の中でヒアリングをします。希望の物件へ車で行って内見して、家を決めたら申込書を書いて…という、契約までの一連のサポートをしています。

メイクホームグループの看板の前に座り、手を前に出しながら、話をする石原社長の様子。

 

生活スタイルに応じでお部屋を探し、入居後のサポートも

 

物件はどのように探しているのでしょうか?

 生活スタイルが皆さん違うので、「どういう風に生活したいか」「トイレはそのまま使えるか」「お風呂は自力で入れるのか」「介護の方が来てくれるのか」など、その方の生活サイクルに応じて部屋を探し出すことになります。
 また、ご本人の障がいや体力が先々どうなるのか。例えば腕の力が弱くなっていく方だったら、そこを考えなければいけないですし。そういったことを相談しながら探しています。

入居後に行っている、支援やサービスを教えてください。

 引っ越し後に家具を配置したり、高い所の電気(蛍光灯)を付けたりなどサポートをしています。あとは、ご本人が管理会社に言うべきか言わないべきか、判断に迷うような相談にも乗っています。


インタビューを終えて…
 お話を伺うまでは、“バリアフリー物件を多数扱っている不動産会社”だと思っていましたが、送迎から入居後の見守りサポートまでをワンストップで行っていることに大変驚きました。


メイクホームのリフォーム事例

 

メイクホームで過去に対応したバリアフリーリフォームの事例を紹介します。部屋を探す際や、リフォームする際の参考にしてみてはいかがでしょうか。

【事例1】トイレ
《改修前》狭い場所に手洗い器と便器が密接しているため、車いすでは利用が困難。
《改修後》便器を手前に移動させ、どの位置からでも便器に座ることができるようにした。

左に正面を向いた手洗い器、すぐ右隣に便座が左を向いて配置されている様子。▲トイレ改修前奥に正面を向いた手洗い器、少し離れた右手前に便座が左を向いて配置されている様子。▲トイレ改修後


【事例2】キッチン
《改修前》キッチン前のスペースが狭く、車いすだとキッチンの正面を向くことが困難。また、シンクの下に観音開き収納があるため、車いすや膝がぶつかる。
《改修後》位置と向きを変えて、シンクの下には何もない構造にすることで膝が入るようにした。また収納の扉も引き出しに。

突き当りに消火器があり、大きな観音開きの扉が下にあるキッチンが左側にある様子。▲キッチン改修前左側に小さな引き出しが付いた、勉強机のようなキッチンの上に、レンジフードと収納棚がある様子。▲キッチン改修後

 

大手仲介会社は「車いすシート」で導線を確認

 

 車いすユーザーをはじめとした障がい者を専門とした不動産仲介会社は、今回紹介したメイクホーム株式会社のみですが、大手不動産仲介会社SUUMOでは、「車いすシート」という車いすのサイズの板を作成し、導線の確認に使用したり、障がい別に担当が分かれていてそれぞれの問題に取り組んでいます。
 また、石原社長自らが講師となり不動産会社向けのセミナーを開き、車いすの人への接客の注意点や、どんな部屋を希望しているかを講義し、障がい者向け対応の重要性を発信しています。
 少しずつ車いすユーザーの部屋探しへの理解や、選択肢が増えるとよいですね。

 

お部屋探しは生活スタイルを考えてから

 

 石原社長の話の中で印象に残ったのは、「生活スタイルを考えて、ある程度妥協をしてもらう」ということでした。
 ただ漠然と“車いすで生活できる部屋”で探すより、自身の生活スタイルを想像し、「室内の段差は解消スロープを使おう」とか「お風呂はシャワーが使えればいい」とか、無理のない範囲での妥協点をあらかじめ絞っておくと、見つかりやすくなると思います。

 この記事が、お部屋探しを検討している車いすユーザーのみなさんの一助になれば幸いです。
 また困ったことがありましたら、ぜひメイクホームに相談してみてください。力になってくれます!

 

写真:渡邉 誠 文:油利美佐子(二分脊椎症・側弯症)