障がい者とともに働いた経験を活かし、就労支援サービス「リモリク」を始めとした障がい者雇用の橋渡しに尽力する、松浦亮介さんにお話を伺ってきました。

 

コンサル業から人事へ異動し、障がい者が持つ才能に感化

 

アクセンチュア株式会社で障がい者のサテライトオフィスのマネジメントをしていた松浦さん。現在はその経験を活かし、障がい者の働く環境をより良くするために、複数の会社を立ち上げて活動しています。

「大学院を卒業し、NTTの研究所に勤務し、その後アクセンチュア株式会社でコンサル業に携わっていました。4年ほど経験し、自分の中である程度仕事に区切りがついたこともあり、全く未経験の人事部に異動願いを出したんです。配属先に選んだのは、本社とは離れたところにある障がい者のサテライトオフィス。それまで一度も障がいのある方と接する機会はなく、本当に何もわからない状態でしたが、今まで自分が培ってきたスキルがハンディキャップのある方のためにも役に立つのか、チャレンジしてみたくなったんです」

当時、サテライトオフィスにいたのは、20人ほどの精神・発達障がいの社員。立ち上げたばかりの部署でもあったため、あまり仕事がなく、各自が自主的に勉強したり、仕事につながりそうな活動をしたりしながら日々を過ごしていたといいます。

「会社的に仕事はあるのですが、なんとなく依頼しにくいというか、抵抗があるという人が多くて。でも、実際に障がい者と接していると、とんでもないスキルを持っている人がたくさんいるんですよ。『空いている時間にVBA(Visual Basic for Applications)でマクロ組みました』なんて言われて見てみると、一つもバグなく仕上げてたり。そういう優秀な人が、こんな大きな会社で活躍できないって、ありえないですよね。なんとかして改革しよう、と行動を始めました。これが今の活動のスタートですね」

 

コンサル業の経験から始まった、障がい者が働きやすい仕組み作り

 

松浦さんがサテライトオフィスで実施したことは、「チーム分け」と社内に向けた「ブランディング戦略」と「管理者の教育」の3つ。

「まずは、スキルを育てるためチーム分けをしました。シンプルな仕事はいずれAIなどのテクノロジーの発展で失われていく可能性がありますし、ものづくりなどの物理的な作業のスキルは自分は持ち合わせていなかった。やはり、PCでできることがベストだったんです。

そのためにはスキルが必要。専門チームを5つ作りました。とはいえ、いきなりチームを作ってもやったことないことはすぐにできないので、『火種』となる人を1人ずつチームに入れました。その人にSV(スーパーバイザー)がつきっきりで技術を教えていると、『なんだかめっちゃ面白そうなことしてる!』とチームメンバーが集まってくるんです。そんな仕組みを作って、スキルアップを図りました」

社内への「ブランディング戦略」は、仕事を依頼しづらいというイメージを変えるため、サテライトオフィスのメンバーの仕事を“見える化”したそう。

そして、3つ目の「管理者の教育」では、サテライトオフィス用に評価基準を作成。対等に仕事を評価するためにも「相手に気付いてもらう」というスタンスでいない、自身の体調をコントロールするなど、業務スキル以外の評価基準をしっかり設けました。

これらの仕組み作りは「コンサル業時代の経験が役立っている」と松浦さんは言います。

「コンサル時代の相手は大企業の健常者でしたが、対象が変わってもやることは変わらないです。障がいのあるなしも、根本は何も変わりません。

僕は上司にペコペコするのは苦手ですが(笑)、後輩を育てるのが得意なんです。上司って、部下の道しるべを作ってあげないと上司の意味がないかなと思っていて。親みたいな立場で、部下に道を作ってあげたいなと思うんですよね」

そんな当時の活動と松浦さんの思いが、現在携わっている、「リモリク」へとつながっていきました。

 

障がい者が働きやすいのはリモートワーク。「リモリク」をハブとして、適した環境で働くサポートを

 

「リモリク」とは、Co-Co Life調査部とGIFT株式会社がともに運営する、リモートワークに特化した障がい者雇用促進のためのリクルーティングサービス。現在、松浦さんはGIFT株式会社の代表として、システムの中心業務を担っています。

「今年の初めにアクセンチュア株式会社を退社し、現在は障がい者に関する活動では『リモリク』がメインになっています。今、障がいのある人が働くための支援は、採用という意味では、一般企業のエージェントとかもありますけど、主に就労移行支援事業所とかA型事業所、B型事業所など国や自治体と関わる形になっています。既存の就労支援サービスにはいくつか問題点があると思い、新しい形でサービスを始めました。

また、コロナ禍が収束し、今はリモートワークよりも出社型に戻りつつあります。ですが、障がい者に適しているのは、やはりリモートワーク。だからリモートでできるスキルをより高めていけるよう『リモリク』のようなシステムが必要だと思っています。

一言で『働きたい障がい者』と言っても、働けず家に引きこもる、働いたもののうまくいかずにドロップアウトするなど、さまざまな状況の方がいます。その全ての人に適切な情報を与えて、『行ってらっしゃい』と送り出したり、『おかえりなさい』と受け入れたりできる、いつでも帰ってこられる“ハブ”のような存在として、機能させていきたいですね」

リモリクのユーザーインターフェイス。Discordというツール内で就職に関する情報を得たり、メンバーと交流したりすることができる。

障がい者と職場とつなぐだけでなく、障がい者の働きやすい環境づくりのため、AIを用いたセルフコントロールツール『樹月(きづき)さん』の開発など、松浦さんはたくさんの会社を立ち上げ、活動しています。

「たくさんの精神・発達障がいの当事者と接してきた中で、自分でも他人でも障がい特性をコントロールすることってとても難しいのだということに気付きました。そこで、AIを用いて客観的なデータから判断したアドバイスができるようなツールを作ろうと考えたんです。

『樹月さん』は、24時間365日、AIがコンシェルジュとしてその人の状態のコントロールをサポートします。例えば、双極性障がいの方がチャットで『!』をいつもよりたくさんつける傾向が出た時に、AIが『躁』の状態に気付いて『躁状態ですよ』と指摘してくれたら、疲れきる前にコントロールできるし、急にうつになることも防げますよね

状態を記録するだけでなく、そこを深堀りしていくことが大事。AIと会話しながら、どうすればいいかを一緒に考えられるんです」

障がいのある人と深く接していたからこそ、気づけた視点だと松浦さんは言います。今後、『樹月さん』はリモリクでも活用予定。障がい当事者はもちろん、企業で障がい者をマネジメントする担当者やカウンセラーの管理ツールとしても活用が期待されています。

 

目指すのは「周りが幸せになる世界」。飛び込む勇気を応援したい

 

そんな最新のテクノロジーを活用しながら、障がい者の“はたらく”をサポートしている松浦さんですが、思い描くのは「自分の周りの人が幸せになる世界」なのだとか。

「僕はこのツールやプラットフォームを世界中に売って稼ごうとか、世界を変えてやろうといった野望は、一切持っていません。

自分で“村”と呼んでいますが、自分の1親等、もしくは2親等の人たちとか、自分と合う人だけが集まる世界を1億個とか10億個作る、分散型の世界観で考えています。僕自身は、自分の周りの人が幸せになってくれればそれでいいんです。

たまたまそれが連鎖していけば、結果的にお金以上の価値を生み出せるかなと思ってます」

松浦さんの「四次元ポケット」には、周りを幸せにするアイデアがたくさんあるそう。そのアイデアを実現するために、大きな会社を1つよりも、小さな会社をたくさん立ち上げ、活動する形がフィットしているのだと言います。

「『リモリク』も賛同して関わってくれた方の幸せのために、活動をしています。企業の戦力になるために、『リモリク』では動画編集やAIを使うスキルなど、企業で重宝される存在になるためのクリエイター技術講座を提供していきたいと思ってます。また、オンラインでの働き方に慣れてもらうため、一部の方は2Dのバーチャルオフィスの活用もし始めました。

バーチャルオフィスのイメージ。実際のオフィスのようにこの中で活動する

アクセンチュアでの経験を活かしてデジタルスキルがあるメンバーを増やし、リモートワークでも十分活躍できると企業に証明したいですね」

リモリクでは、すでにさまざまなスキルを身に着け、就職を目指すメンバーも。そんな人たちと関わりながら、「挑戦する人を応援したい」と松浦さんは言います。

「自分なんか戦力にならないと思っている方は多いです。“戦力”には、すでに持っている能力と、これから身に着ける努力による能力の2つがありますが、前者はまだ気づいていない可能性がある。それを引き出すのが僕の役目かなと。

僕がこの仕事をしているのは、まだ気づいていない能力を見つけるのがめちゃくちゃ楽しいから。僕はたまたま気づいて活かすことができる能力があるので、それを活用してぜひあなたの能力を伸ばしてほしいです。

後者は、“飛び込む勇気”さえ出してもらえれば、『リモリク』で応援していきます。一緒に武器を手にして、新しい世界を作っていきたいです。『リモリク』の技術講座は実践に特化した有料級のものです。しかし、参加者の“飛び込む勇気”には、それ相応の価値があると考えています。そんな素晴らしい勇気をくれた方に無料で提供しています。チャンスはいつ来るかわからなくて、準備している人にしか手に入れられません。まずは自分を信じて、手を挙げてくれたらうれしいですね」

 

<プロフィール>

松浦 亮介(まつうら・りょうすけ)

京都大学大学院情報学研究科を修了後、日本電信電話株式会社(NTT/NTT研究所)を経て、アクセンチュア株式会社に入社し、コンサルタント業に従事。人事部に異動し、障がい者のサテライトオフィスでマネジメントを担当。精神・発達障がい者の働きやすさ向上に尽力する。2024年1月に退社し、障がい者を含めた身近な人々の困りごとを解決するために複数の会社を立ち上げ、活動中。

リモリクについて詳細はこちら
https://research.co-co.ne.jp/employment-for-people-with-disabilities/

 

写真:鈴木智哉 取材・文:関 由佳