メディア「らくゆく」のプロデューサー遠藤久憲が、会って話したい、と感じた方と、気軽に、そして時に赤裸々に対談をする企画がスタートしました。
第一回は、車いすダンサーのかんばらけんたさん。遠藤プロデューサーとは旧知の仲であるたかんばらさんに、ダンサーとしての活動のきっかけや障害に対する考え方、そしてプライベートまで、たっぷり語っていただきました!

障害をあえて活かす。見せるからこそ、人の気持ちを動かせる

にこやかに談笑する遠藤プロデューサーとかんばらさんの写真

遠藤P 久しぶりだね!知り合ってからどのくらい経つんだっけ?

かんばらさん そうですね。初めてお会いしたのが23歳くらいなので、もう15年くらいですかね。

遠藤P 当時わたしが立ち上げた障がい当事者向けフリーペーパーにボランティアに来てもらったんけど、入ったきっかけは、なんだったっけ?

かんばらさん 社会人になって、兵庫県から東京に出てきた時、障害がある知り合いも欲しいなと思って、何かお手伝いしようかなと参加したのがきっかけです。

遠藤P 今は車いすダンサーとSE(システムエンジニア)の仕事は両立しているの?

かんばらさん そうですね。平日はSEの仕事をして、土日とかイベントがある時にダンスの仕事をしています。SEはもう17年くらい続けてますね。車いすダンスは8年前に始めました。

遠藤P そもそも、車いすダンスを始めたきっかけは?

かんばらさん テレビのニュースで、車いすを作っているヤマハ発動機さんと、楽器を作っているヤマハ株式会社さんがコラボ製作した、ダンスパフォーマンス用の車いすが紹介されているのを見たんです。タイヤが太鼓になっていたり、後ろの羽のようなものが布製のスピーカーになっていて、車いすが動くと波の音が出たりするんですけど、それを見て面白いなと興味を持ちました。その後、たまたまSNSでサーカスのイベントで車いすのパフォーマーを募集しているのを見つけて、「あの車いすに乗ってみたい」と思い、応募したのが、ダンスとの出会いです。

遠藤P ダンスをする前は、たしか陸上をやっていたよね。

かんばらさん はい、もともと体を動かすことが好きなので、趣味で陸上競技をしていました。

遠藤P 陸上はやめちゃったの?

かんばらさん そうですね(笑)。ダンスをやってみて、パフォーマンスが自分の身体の特長を活かすのにすごくマッチしているな、と思ったんです。それまで、いろいろなパラスポーツを経験しましたが、どれも結局、側弯が強くて左右のバランスが違うという障害の特性で勝てなくて、それがなんかしっくりこなくて。あと、パラスポーツしていると、いつも「パラリンピック目指しているの?」って聞かれて、それもなんか違うって思ってしまって(笑)。でもダンスのパフォーマンスは、僕の体のつくりを活かして、僕にしかできない表現ができるんです。そこにピンときて、一気にハマったという感じですね。

遠藤P なるほど。たしかに、かんばらさんのダンスは「障害者なのにすごい」とは違うよね。車いすの車輪を使うとか、かんばらさんのオリジナルになっている。

かんばらさん 僕も「車いすでも踊れる」といったところには興味なくて。単純に、見てくれた人が「すげえ!」とか「かっこいい!」って思ってくれる方が大事で、その人の中でコンプレックスが違う目線になったらすごくいいなと思います。

遠藤P うん、やっぱり、自然に受け入れられるのが望ましいよね。

インタビューを受けるかんばらさんの写真

かんばらさん よく「ダンスで障害を受け入れられたんですか?」とか聞かれるんですけど、そういうのは特になくて、むしろ障害との距離感はダンスする前からつかめてたつもりです。大人になってからは、障害に思い悩むことがないんですよね。ただ、ダンスを始めてから思ったのが、ステージの上では、障害が僕にしかできない表現の武器になることもあるんだっていうこと。最初は細い足とか、側弯のある背中とかを見せることに抵抗があったんですが、それを見せることで、より上半身の力強さが際立つんですよね。障害という制限があるからこその際立つ表現って、より人の心を動かせるんじゃないかなと思ってます。そこは、ダンスを始めてから変化した価値観ですね。

遠藤P 私も、メディアを始めたきっかけは、当時世の中に障害のある人たちと接する機会がない中で、もっと知ってほしいというのがあったんだよね。でも10年経って、障害者のインフルエンサーも出てきて、当たり前になってきた。もうそろそろ、どんな人も自然に融合できる社会、っていう次のステージに向けて世の中を良くしていきたいと思っていて、その一番わかりやすい例がかんばらさんかなと思う。“障害者なのに”が前置きにないのが理想で、そういう人がたくさん出てきたらいいよね。

かんばらさん うーん、個人的には、ダンスで障害を武器にしているから、障害が全くない状態のかんばらけんただと立てないステージに、今の自分だからこそ立てるというのはあると思ってます。でも別にそれでいいかなと思ってて。だけどそれだけだと面白くないので、もっとダンススキルを上げたり、表現の幅を広げたいと思いますね。

遠藤P ダンス一本でやっていきたいとかはあるの?

かんばらさん いや、それはないですね。障害があるダンサーがダンス一本で生きようとすると、やっぱり制限があります。例えば、ダンス教室で毎週クラスを担当することはできないとか。それに、健常者でもバックダンサーだけでは生活できないのですが、普通のバックダンサーがステージに立っても「意味」は求められないけれど、障害があるダンサーがステージに立つと「多様性」など「意味」が「意図」を求められるので、バックダンサーとしてもステージに立ちづらいんです。

遠藤P じゃあ今の“二足のわらじ”の状態を維持する感じ?

かんばらさん そうですね。SEの仕事があるから、ダンサーの仕事はお金のことを意識せずに出たいステージに立てるっていうのはあると思います。だから、今のこのバランスがちょうどいいかな。

 

妻との出会いはフリーペーパー!今は2児の父としての顔も

遠藤P 家庭人としての「かんばらけんた」はどうなの?SEとダンサーの仕事とのバランスは難しい?

かんばらさん まぁ難しいとは思いますけど……どうかな(笑)。家庭に対して大事にしているのは、妻の”母親お休み日”をちゃんと作るってことですね。共有しているスケジュール表に、妻が友達と遊びに行くっていうスケジュールが入ってたら、スケジュールが調整できるダンスの依頼であればその日を外します。母親お休み日は、妻にはちゃんと休んでもらって、僕が2人の子どもにご飯食べさせて、お風呂入れて、寝かしつけまでして、夜遅く帰ってきても問題ないようにしてますね。

遠藤P そうかぁ。奥さんとの出会いは当時わたしが発行していたフリーペーパーだよね(笑)。実は私の奥さんの同級生でもあるし(笑)。

かんばらさん そうですよ(笑)!妻とは当時、印刷会社の営業さんで、フリーペーパー発刊の打ち上げで出会いました。その時SNSでつながったら、ミュージシャンのサカナクションのファンクラブに入っていることを知って。僕もサカナクション好きだったので、ライブチケットを取ってもらって……というところが始まりです(笑)。

遠藤P 編集部で、2人の写真を表紙にした「お祝いフリーペーパー」を作って、結婚のお祝いしたよね(笑)。

かんばらさん ありましたね(笑)!妻との出会いが、フリーペーパーボランティアの一番の思い出ですね(笑)。

遠藤P 休みの日は子どもと出かけたりする?

かんばらさん はい、でも特別なお出かけという感じではなく、公園行ったりとか妻の買い物に付き合ったりとか、日常的なお出かけです。そういう意味では、自分だけ1人きりのプライベート時間っていうのは、ほぼほぼないですね。

遠藤P うちも子ども小さいから、わかるよ。一人の時間はほぼないよね。

かんばらさん ですよね。たまにダンスの公演を見に行く時は、一人で出かけるかな。あとは地方とか海外の出演があると、自由な日がある時もあります。でも、1日中家にいてゲームしている日はもうないですね……(笑)。

障害は前向きにあきらめる。別ジャンルやコラボダンスで表現力を伸ばしたい

遠藤P 今後は、どんなことを目指しているの?

かんばらさん うーん、SEとダンサーの仕事を今のバランスのまま続けていく、という感じですかね。

遠藤P ダンサー・かんばらけんたとして、今何か悩みはある?

かんばらさん 悩みはあんまりないですね。でも満足はしてないです。

遠藤P 満足していないことって、例えばどんなこと?

かんばらさん ダンススキルが低い、表現の幅が狭い、振りを覚えるのが遅い。これは満足できてないかな、と思ってます。障害に関しては、仕方ないというか、前向きにあきらめることもありますが。

遠藤P なるほど。

かんばらさん よく「障害を受け入れたきっかけは?」とか聞かれるんですけど、別に受け入れてはいなくて、前向きにあきらめてるんです。障害ってやっぱり面倒なこと多いんで、個性とかとも思ってなくて、どちらかというと、歩くことにこだわるのをやめたという感じですね。

左手を掲げてインタビューに答える神原さんの写真

遠藤P そうかぁ。ちなみに、体の線や筋肉が魅力の一つだと思うけれど、筋トレとかはしているの?

かんばらさん いや、特にしてないです。家の中では車いすを使わずにハイハイをしているので、もう日常が筋トレです(笑)。歯を磨くために、自分の頭よりも高い位置にあるいすに上ったり下りたりするとか、ほぼ逆立ちみたいになることもあります。だからそれが筋トレになってると思います(笑)。

遠藤P 最後に、これから何か挑戦したいことはある?

かんばらさん そうですね……ダンサーだけでなく、歌手の方とのコラボとかは新しい表現が見つかるので、チャンスがあったら参加したいです。あと、他のダンスのジャンルにも興味ありますね。表現力を上げるためにも、違うジャンルを経験してみて、自分の表現に落とし込んでいけたらいいなと思います。

 

撮影後、かんばらさんにダンスを披露していただき、改めてその迫力にスタッフ一同拍手喝采でした……!かんばらさんが出演するイベントは、SNSにて随時お知らせ中。ぜひ迫真のダンスを生でご体感ください!

車いすから降りて踊る神原さんの写真

 

神原健太さんが衣装着て決めポーズの写真

かんばらけんた さん
1986年生まれ。二分脊椎症で車いすユーザー。会社員としてSEの仕事をするかたわら、車いすダンサーとして活動。リオや東京で開催された世界的なパラスポーツの大会や、有名アーティストのコンサートなどでのパフォーマンス経験も。プライベートでは2児の父。

Xのアカウント @kamb86
Instagramのアカウント @kenta.kambara


撮影協力:となりのと https://www.good-commons.org/kitchen

撮影:鈴木智哉 文:関 由佳

※本企画内では、ご本人のお考えにより「障がい」表記を「障害」に統一しています。