「Museum Of Gifted Art」(障がい者アートの美術館)の頭文字を取って名付けられた「MOGA」。豊島区の住宅地の一画、空き家を改装して作られた空間に、全国の障が者が制作したアート作品が集まっています。作品展示以外にも、カフェやアートコンテスト、ワークショップなど、誰もがアーティストになれる可能性を秘めた場所作りを目指して活動されている「一般社団法人むすび」代表理事のお二人に話を伺いました。

▲写真向かって左が大石明恵さん、右が小島令子さん
気軽に立ち寄ったマルシェが縁の始まり

▲帽子デザイナーでもある大石さん。デザインは好みだけどサイズが合わない帽子が多いことに悩み、「なら自分で作ろう!」と思い立ったのがきっかけとのこと。
―帽子デザイナーの大石さんと紅茶専門家兼洋菓子研究家である小島さん。別々のジャンルで活動されていたお二人ですが、どのような経緯で知り合ったのでしょうか?
大石さん(以下大石)/
これは本当にご縁と言いますか……。
今から10年くらい前に私が趣味でヨガを習おうとしていた頃、ちょうどヨガ教室に行く道の途中にマルシェがあって、寄ってみない? って声を掛けられたんです。
当時小島はそこでさまざまな分野の講師の方をお呼びして雑貨やお菓子の販売とか、マッサージの体験会などを主催していました。
小島さん(以下小島)/
最初に大石が来た日は私が先生方のサポートで忙しく、すぐに話すことができなかったのですが……後で彼女と話したスタッフから「こういう人が来ました」って紹介されて、詳しく聞いていくうちに私と同じ方向性の人かもって思って、それで実際に会ってみようと思ったんです。
大石/
マルシェに参加してみたら楽しくて、素晴らしいことをしているなって感じました。私も楽しいこと大好きなので。それでちょっと名刺交換をしたところからすぐに仲良くなりました。
―まさに縁ですね!
大石/
そう、たまたま通りかかったのが縁でしたね。
実際に会って話すと、すごく波長が合いました。
性格的には私は大雑把なほうだけど、彼女は逆にきちっとしているので(笑)
そこもバランスが取れていいんじゃないかなと思っています。
障がい者のモノづくりの素晴らしさを発信するために設立された美術館
―友人としての交流から、この活動に至るまでにどのようなやり取りがあったのでしょうか?
大石/
小島が紅茶専門家ということで、マルシェ以外のイベントにも参加させていただくようになりました。
その中で行政からの依頼で、彼女が福祉施設へお菓子の技術指導に行くって知って、実際に研修を開いた時のことも聞いたら「私たちにももっと、障がい者のためにできることがあるかもしれない」という話になって。そのことが今につながっています。

▲「ここまでやって来られたのは、自分だけではなく優秀なスタッフたちがいてくれたおかげ」と語る小島さん。
小島/
その仕事ではいくつかの施設に伺いましたが、お菓子だけではなく障がいのある方の「モノづくり」全般の能力には非常に素晴らしいものがあると感じました。
でも、そういうのがなかなか世には伝わっていないとも思って。それを大石に話したら、とても共感してくれました。
大石/
実は私も手指に少しだけ障がいがあるんです。
でも日常生活にはそれほど支障がなかったので、それまであまり福祉に関心があるというわけでもなかったのですが。
だけど、自分のそうした経験の上で小島の話を聞いて、何か貢献できることがあるんじゃないかと考えるようになりました。
小島/
それで2016年くらいから、周りのいろいろな人に手伝っていただきながらまずは障がい者たちが作ったものを展示販売するイベントを2年くらい開催していました。
もう本当にアットホームな、手作り感満載の雰囲気で「今日は障がいのある方のモノづくりを見てください、で、よかったらそれを買い求めてご自分の身近に置いてください」って呼びかけながら。
大石/
内容も自分たちで企画して、障がい者の方がやっているバンドのコンサートのチケットとか売ったり。そこで同時に障がい者が作ったグッズをお預かりして販売して……というのを繰り返していました。
小島/
それがとても反響が大きくて、これはもっと多くの方に、うちの方もいろんな方に手伝ってもらってやっていこうと感じました。
そこで2019年に「一般社団法人むすび」を設立すると同時にコンテストも始めたんです。
コンテストの開催は、全国には本当に素晴らしい作品、素晴らしい商品があるだろうということで、コンテストで応募してもらったらいいよねって話になったのがきっかけです。
SNSと口コミ。地道な活動で根強いファンを増やしていく

▲作品は、百貨店の展示会に貸し出すこともあるそうです
―「モノづくりアートコンテスト」では、「障がい者の生き方の選択肢を創る」というビジョンを掲げていますね。
小島/
はい。
応募される障がい者の方の多くは、「誰かに見てもらいたい」という気持ちよりも自分の中から自然に湧き出てくるものをアートとして表現されています。
でも、やはり作品を展示して、より多くの人に見てもらえると非常にやりがいとか生きがいみたいなものにつながると思っています。
大石/
なのでコンテストへの応募については、最初は何でもいいから描いたり作ったりしたものを送ってほしいなって思っています。
最初の一歩を行動してもらうことが一番の目的だったので。
やっぱり応募するって結構有意義ですし。
小島/
コンテストがきっかけで、このギャラリー以外にも歴史のある建物で展示されたり音楽とコラボレーションするチャンスもあります。
障がいがあってなかなか外に出ることが難しくても、自分が作ったもので世の中に存在を示すというところがやはりアーティストの選択肢の一つかなと個人的には考えています。
―応募作品はどのくらい集まるのでしょうか?
小島/
当初は50人もいなかったんです。
応募してくるエリアも関東だけでした。
大石/
「一人当たり何点でもいいから!」って言ってたんですけれどね。
小島/
それでも作品として60点ほどでした。
でも2023年、急に応募が増えて・・・・・・前回(2024年度)は403点ありました。
―急に増えましたね、何かきっかけがあったのでしょうか?
小島/
それが、心当たりがなくて(笑)
大石/
インスタで発信はしていました。
あとは、応募作品の内容は全て冊子にして応募者にプレゼントしていたので、次の年も応募したり、誰かにお話ししてくれてたということもあると思います。
―応募作品が増えたことによって、この美術館に足を運ぶ人の反応も変わりましたか?
大石/
特定のアーティストの方の作品を目当てにやってきた方がいました。
固定のファン、という感じでしょうか。
これからそういう方を増やしていけたらなと思っています。
―アーティストたちも、作品を応募することによって変化があったのではないでしょうか?
小島/
このコンテストをきっかけに自身の障がいを周囲にカミングアウトした方がいました。ずっと自身の障がいを隠して生きてきたけれど、もうやめようと。
コンテストによって生き方が変わったというメッセージを頂いたときは、こちらも本当にうれしかったです。
大石/
それと最近は、応募の動機として「自分はこれからアートを仕事にしていきたい」というコメントも結構あります。
逆に、一回応募してから趣味が変わってしまって絵を描かなくなった人もいました。それはそれで、その人の一点限りの作品を私たちは見ることができたのですから、とても貴重な体験ができていると感じますね。

▲コンテスト後も、応募者とコミュニケーションを取り、美術館の近況を発信しているとのこと
触れ合う楽しさ、大切さを次の世代に伝えるためのワークショップ

▲今後のワークショップで取り上げてみたいという針金で作られたアート作品
―地域貢献活動も重視していると伺っております
小島/
地元の小学校、中学校、幼稚園の生徒児童や先生方に積極的に来てもらっています。
昨年からはワークショップも定期的に開催しておりまして、クリスマスにはお子さんも楽しめるオーナメントクッキー作りをしました。
―ただアートを鑑賞するだけでなく、実際に作って体験もできるのってワクワクしますね!
小島/
障がいやアートについてまだわからなくても、「ここにいる」ということが大事だと思います。
それと、今後は障がい者が子どもたちにアート作りを教えるという企画も考えています。なかなか障がいのある方から何かを教わるということはまだまだ少ないと思うので、幼いころからそうした体験をするのはお互いを理解しあうためにも大事だと思うので。

▲視覚障がいのある私にとって、手で感じ取れるアートや実際に作って体験できる場所はとても嬉しい!(ライター談)
―コンテストにワークショップと、多彩な取り組みをなされていますが、ほかにこの美術館を通じて実現したいことはありますか?
大石/
これから試行錯誤しながらではありますが、こうして拠点ができたことでやりたいことも増えました。今後はこの美術館の運営形式をモデルケースとして、次の世代にも活用してもらえればと考えています。ほかの地域にも、このような場所がもっと増えてほしいですね。
【お二人の元気の秘訣、読者へのメッセージ】

▲時には真面目に、時には笑いを交えてお話していただきました
―お二人とも、非常に精力的に活動されているようですが、その元気はどこから湧き出てくるものでしょうか?
大石/
私はもともとお節介な性格で、いろんな人に出会う中で「この人にこの人を紹介したら新しいことが生まれるんじゃない?」とか考えたり、自分で良いと感じた商品や映画をとにかく人にも勧めたくなっちゃうんです。
でもそれがこのお仕事に活かされてるとも思います。
小島/
私はね、まずは睡眠第一(笑)
それと、あえて大望を抱かないこと。
あまり大きな願望があると疲れてしまうこともあるので。
自分が頼まれたことで、それができるかなと思ってしまいますし、苦手なことはそれが得意な方にお任せするようにしています。
―最後に「らくゆく」ユーザーの皆さんに一言お願いします。
小島/
私もこの活動を始めるまでは、アートってなんかすごく高尚というか、敷居が高いものだと思っていたんです。
でも実際はそんなに難しく考えるものじゃないということがわかって、それを実感するには障がい者アートってすごくいいと思うんです。
アーティストもみんな、純粋に楽しんで作品を作っている。だから鑑賞する側も気軽に作品に親しんでもらえればと思います。
大石/
コンテストを通じて、私たちも皆さんからナチュラルなエネルギーをたくさんもらっています。
ぜひ美術館に、素晴らしい感動と美味しい紅茶を味わいにいらしてください。
そして、「モノづくりアートコンテスト」にも参加していただければ嬉しいです。
―本日はありがとうございました!
ギャラリー内のカフェでは、小島さん考案のレシピによる紅茶や、茶葉に合わせてセレクトされたスイーツも楽しめます!
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▲紅茶はフルーティで飲みやすく、男性にも好評とのこと。
ケーキは甘さ控えめの中にもコクのあるクリームとスポンジの相性が絶妙でした!
インタビューを終えて
野﨑
まさに沢山の「縁」がつながってこそ出来た美術館なんだなと実感しました。代表理事お二人の熱意とユーモアに溢れたお話はもちろん、作品一つひとつに込められたアーティストたちの深い想いにも触れることができ、温かく充実した時間を過ごせました。
こうした人と地域が穏やかにつながっていける場所がもっと増えてほしいと思います。
神戸
障がい者アートの美術館「MOGA」を運営する大石さんと小島さんの情熱に感銘を受けました。アートを通じて人々を結びつけ、障がい者の才能を発信する取り組みは素晴らしいです。作品が生き方を変える力を持つことにも心を動かされました。今後の活動がさらに広がることを願っています。
【プロフィール】

大石 明恵(Akie OISHI)
一般社団法人むすび 代表理事
モノづくりアートコンテスト審査員
幼いころに事故により左手に障がいをもつ。「障がいがあっても何でもできるように・・」という母の厳しい愛情のお蔭で、明るくチャレンジ精神旺盛な女性に成長。自身の経験から障がい者が希望をもって生きられる社会の実現を目指し一般社団法人むすびを2019年に設立。そして2023年、障がい者支援をより具現化する「&YumeLabo」事業を起こす。
感性溢れる斬新なデザインが人気を集める帽子デザイナーとしても活躍中。

小島令子(Reiko KOJIMA)
一般社団法人むすび 代表理事
モノづくりアートコンテスト審査員
紅茶専門家、洋菓子研究家。
ドイツ、フランス、イギリス、インドで技術と文化を学び、スイーツスクール校長、専門学校講師など指導者として活動。また、お菓子メーカーの新商品レシピ開発やカフェ、レストランなどのメニュー監修なども行う。
[スイーツで福祉と社会をつなぐ]活動を通して特別支援学校や障がい者施設への技術指導にも取り組む。
【施設概要】
住所:
東京都豊島区南長崎4丁目12−20
電話番号:
03-4405-8085
アクセス:
地下鉄都営大江戸線 落合南長崎駅
営業時間:
水~日曜日および祝日 10:30 - 17:00 (ラストオーダー16:30 )
定休日/月・火曜日
公式サイト:
https://and-yumelabo.com/about/
施設案内:
http://www.toshima-icac-tokyo.net/events/244
「モノづくりアートコンテスト」応募概要:
https://and-yumelabo.com/contact/app_contest/
Instagram:
https://www.instagram.com/moga_museum_of_gifted_art/
【バリアフリー情報】
・大江戸線 落合南長崎駅から車いすで走るルートを紹介⇩
URL:https://rakuyuku.com/?actmode=BlogPageDetail&pageid=759
・公園の多目的トイレの情報
ギフテッドアート美術館MOGAから2分のところに
「豊島区立 南長崎 花咲公園(トキワ荘公園)」があります。
公園内の多目的トイレ
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インタビュー/神戸剛(脊椎損傷)
文/野崎恵美子(網膜色素変性症)
撮影/寺川健一(四肢機能障害)、小川陽一