知的障がいを抱えながらも30代から絵を描き始め、いまやその独創的な画風で多くの人々を魅了。数々のコンクールで入選を果たすまでになった画家の小幡海知生(おばたみちお)さん。
作品の世界観に惹かれると、同時に彼の人となりに関心を持つかもしれません。
7月8日からギフテッドアート美術館MOGA(東京都豊島区)にて開催される個展「小幡海知生展 みちを水族館」を控えた今、本人から障がいのこと、作品づくり、そしてこれからのこと──リアルな想いを伺いました。

小幡さんの描いた絵が並んでいる。海の中にカラフルな色彩で魚やヒトデ、エビ、海藻などが描かれている。

 

目次 

35歳で知的障がいの診断。戸惑いの中で描いた小さな世界が表現者への転機に
「人とつながりたい」という思いを原動力に、新たな分野への興味も
自分なりの目標が見つかれば、前に進んでいける
【小幡 海知生(おばた みちお)プロフィール】
【展示会案内】
 

35歳で知的障がいの診断。戸惑いの中で描いた小さな世界が表現者への転機に

小幡海知生さん(以下、小幡):
障がいの診断がついてからもしばらくは自分の状態がどういうものなの分からず、悶々とする日々が続いていました。
でも、そんな時にテレビで知的障がいに関する特集があって、そこで出演していた当事者たちの話を聞いて「あぁ、自分の障がいってこういうことなのか」と納得することができました。

 私たちの質問に明るく気さくに答えてくれる小幡さん。
 しかし、ここまでの道のりは決して平たんなものではありませんでした。
 自身の生きづらさに戸惑い悩み続ける日々の中で、やっと見つけた心の拠り所こそが「アート」だったのです。

 

小幡:
30歳までの10年間、料理店で働いていたのですがそこを辞めて、その後は色々な仕事を転々としていました。
でも、どれもなかなか続かなくて……そんな中、頭に思いついたイメージを紙に描くようになりました。最初は絵画用の大きいキャンバスではなく、手元にあった小さな紙に描いていたんです。

始まりはメモ帳程度の小さな用紙。
そのうちに「スケールの大きいものを見ると、自分も大きな紙にめいっぱい描いてみたい」と思ったそう。
今でも、外出先で見かけた建物やアートからインスピレーションを多く得ているとのことです。

 

小幡:
東京ドームで毎年開催されているキルト展には、必ず行きますね。
あと美術館に行って作品を見ると、帰るなりもうスイッチが入って止まらないんです。
「他の人がやらないような描き方や色使いを試してみたい!」とか考えて、下書きせず直接イメージをバーンを描いていきます。

好きなアーティストとして草間彌生、岡本太郎、キース・へリングを挙げる小幡さん。
小幡さん自身の作品も彼らに負けず劣らず独創的で、遊び心あふれる絵柄や、目が覚めるような色使いが光ります。

カラフルな幾何学模様の絵。様々な色の線が積み重なって円や三角形、四角形を形作っている。

▲緻密で力強いタッチにユーモラスなモチーフが印象に残る作品の数々

 

小幡:
一番好きな画材は顔彩(固形絵具)でしょうか。色が濁らないので。
顔彩がない時は、アクリルとかポスターカラーで着色することもあります。その2つも、発色がとても良いという理由で気に入っています。

作品を製作している間の様子も聞いてみました。


小幡:
絵を描いている時間はとにかく夢中で、ご飯を食べるのも忘れて……というほどではないかな。お腹は空きます(笑)よく音楽をかけながら描いていますね。最近は福山雅治とか松山千春とか。洋楽や歌謡曲を聴くこともあります。

作業部屋の真ん中には1畳ほどの大きさのテーブルがあり、絵が置かれている。テレビやエアコン、本棚、ソファーがあり、快適そうな空間。

▲普段作品を製作されているお部屋も見せていただきました

 

壁に掛けられた絵画。カラフルな線や三角形の模様の花びらのようなものが集まっている絵と、円の中にたくさんの三角形が敷き詰められた絵。

▲最近は、遊びに来た親戚の子どもたちと一緒に絵を描くこともあるとのこと

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「人とつながりたい」という思いを原動力に、新たな分野への興味も

ご自宅で大切に保管されていた作品についても、一作ずつ丁寧に作画や製作中のエピソードを語っていただきました。
まさにアート尽くしの日々なんだろうなと納得してしまう一方で、作品を描いていない時間はどんなことを楽しんでいるのでしょうか?


小幡:
絵を描いていない時は、映画を観たり野球観戦に行きます。
野球は特に巨人が好きで、球場に行くとたくさんの人と会えるのが良いですね。
お城や寺院を見に行くのも好きで、日本のお城だと松本城。あそこから見るアルプスがとにかくすごいんですよ。
あと、代々木上原を訪れた際に見たモスク(イスラム教式の寺院)も印象的でした。
そこからイメージを得て描いた作品もあります。

趣味のことに話が移っても、最終的に小幡さんが考えるのはアートのこと。
今は絵画が中心ですが、新たな分野の作品づくりにも関心があるようです。
 

小幡:
以前、陶芸を習ったこともあるのですが、そこでで作業自体はもちろん沢山の人と交流できたことがものもすごく楽しかった。なので、また陶芸をやってみたいなとは思っています。

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自分なりの目標が見つかれば、前に進んでいける

インタビューを受ける小幡さん

▲かつての自分と同じ悩みを抱えている当事者への想いも、真摯に語られていました


新たなチャレンジに向けて、精力的に活動の幅を広げている小幡さん。
最後に、7月から始まる個展に興味を持っている方へメッセージもいただきました。


小幡:
とにかく多くの人に作品を見てもらいたいです。
あと、障がいがあっても自分たちにはまだできることがたくさんあるということをアピールしていければいいなと思っています。
障がいの重さに関係なく、何か目標が見つかれば人生が楽しくなって前向きになれると思うんです。
そして、その中から生まれた当事者それぞれの表現が多くの人々の目に触れて、受け入れてもらえるような社会にればいいなと思います。

額縁の中にたくさんの魚の絵が飾られている。四角い体に黄と青の縞模様の魚、上半分が黒、下半分が赤い魚、上半分が青、下半分がグレーの魚などが泳いでいる。

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【小幡 海知生(おばた みちお)プロフィール】

 1969年埼玉県生まれ。
 幼いころは周囲とコミュニケーションをとるのが苦手などの生きづらさを抱え、心の葛藤から自信をアートで表現しはじめる。
 現在、ユニークで優しい作風が各方面から高い評価を得ており、本人の親しみやすい人柄でも多くのファンを得ている。
 主な受賞歴に二科展入選、美術家協会会長賞、ものづくりアートコンテスト初代グランプリなど。

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【展示会案内】

「小幡海知生展 みちを水族館」
期間:2025年7月8日~8月31日
会場:ギフテッドアート美術館MOGA
(東京都豊島区/地下鉄大江戸線 落合南長崎駅)
▼詳細は以下のチラシをご覧ください

展示会のポスター。中央にはスカイツリーの周りを魚が泳いでいるような絵があり、右下にはグッズ販売、イベント内容のQRコードがある。休館日は月曜、開館時間は10:30~17:00、入場無料、予約不要。

会場への車いすでのアクセス:
https://rakuyuku.com/index.pl?actmode=BlogPageDetail&back=index%2epl%3factmode%3dBlogPageList%26word%3dMOGA&pageid=759&KC=%e4%ba%ac

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文/野崎恵美子(網膜色素変性症)
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