東京2025デフリンピックの全日程終了に伴い、国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)のアダム・コーサ会長らが小池百合子東京都知事を表敬訪問した。100周年の節目となった本大会は、過去最高レベルの記録と33万人の観客動員を達成。双方は大会の成功を称え合うとともに、デフスポーツのさらなる発展と、東京から世界へ発信する「共生社会」の実現に向けた連帯を誓った。
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写真:東京都提供
■「競技レベルは健聴者と変わらない」――進化するデフスポーツ
表敬訪問の冒頭、ICSDのアダム・コーサ会長は、東京都および全日本ろうあ連盟の尽力に対し、深い感謝の意を表明した。
コーサ会長は、本大会で39のデフ世界新記録、62のデフリンピック新記録が誕生したことに触れ、「各国の競技の質が飛躍的に向上した」と総括。「ろう者の競技環境が、聞こえる人々の環境に近づいている証であり、この状況を非常に誇りに思う」と述べ、金メダル209個を巡る熱戦が繰り広げられた東京大会を「100周年を記念するにふさわしい、大成功の大会」と評した。

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また、一般財団法人全日本ろうあ連盟の石橋大吾理事長は、1924年のパリ大会から100年目という節目の大会を東京で開催できた喜びを語った。日本選手団が史上最多となる51個のメダルを獲得した快挙について、石橋理事長は「アスリートの努力はもとより、施設環境、そして会場に集まった観客の応援が力になった」と強調。「スポーツ、教育、文化、福祉の面でレガシーを残せたことは、連盟単独では成し得なかった。関係機関と連携し、この成果を未来へつなげていきたい」と決意を新たにした。

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■「知名度10%」からの逆転――アスリートを支えた33万人の声援
会談には、今大会で輝かしい成績を残した3名のメダリストも同席。観客であふれた会場でプレーできた喜びと、感謝の言葉を口にした。

陸上男子400m、4×400mリレーで金メダル、200mで銀メダルを獲得した山田真樹選手は、自身3度目のデフリンピック参加となる。「初参加のトルコ大会当時、国内での知名度はわずか10%だった」と振り返り、開催への不安があったことを吐露した。しかし、広報活動や自身のポスター起用などを通じて機運が高まり、結果として33万人が来場。「皆様からの応援が力になり、3つのメダルを獲得できた。会場が一体となって盛り上がれたことが本当に嬉しい」と笑顔を見せた。

空手女子 形(団体戦)で金メダルを獲得した湯澤 葵 選手は、「皆様の広報のおかげで、多くの観客の前で過去最高の演武ができた」と感謝を述べた。「このデフリンピックをきっかけに社会が変わってほしい。次世代の子供たちがデフリンピックを目指せる環境づくりに貢献したい」と、次世代への継承を誓った。

バドミントン女子ダブルスと混合団体で2冠を達成した矢ケ部紋可選手は、妹とのペアで掴んだ金メダルについて言及。「地元東京で、普段お世話になっている方々に恩返しができた。見に来てくださった方が感動し、『バドミントンをやってみたい』と思っていただけたら嬉しい」と語り、スポーツを通じた感動の広がりを期待した。

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■「音のないマラソン」が銀座を駆け抜けた――東京が刻んだ新たな歴史
小池百合子都知事は、アスリートたちの活躍と観客の熱気を称賛。「メダルラッシュに沸き、都民も世界の人々も感動を共有できた」と大会を振り返った。
特に印象的なシーンとして、銀座などの都心(KK線)を走るマラソン競技を挙げた。「子供たちがサインエールで懸命に応援していた。足音だけが響く『音のないマラソン』は初めての経験だったが、雨の中を走り抜く選手の姿は、東京大会の象徴的なレガシーになった」と語った。
また、都が力を入れた手話言語とデジタル技術を融合させた「おもてなし」が、世界中の関係者に届いたことにも触れ、「次の100年に向け、共生社会実現への取り組みを加速させる。インクルーシブな都市づくりの理念を、東京から世界へ広げていきたい」と締めくくった。

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【参加者一覧】
- アダム・コーサ 氏(Adam Kosa)/国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)会長
- 石橋 大吾 氏/一般財団法人全日本ろうあ連盟 理事長
- 山田 真樹 氏/陸上(男子400m金、200m銀、4×400mリレー金)
- 湯澤 葵 氏/空手(女子 形 団体戦 金)
- 矢ケ部 紋可 氏/バドミントン(女子ダブルス金、混合団体戦 金)
- 小池 百合子/東京都知事
(取材協力:東京都)
