「ババ抜きは簡単でも、七並べは難しい」――その理由、想像できますか? 日本のボードゲーム界を牽引する草場純先生が中心となり、40年にわたり続けてきた「視覚障がい者とのゲーム会」。点字や触覚を頼りに、どうやってアナログゲームを楽しむのか。その試行錯誤の歴史と、デジタル時代にこそ大切にしたい「顔を合わせて楽しむ時間」の価値について語っていただきました。
 


目次


草場先生のプロフィール
 

草場純(1950年生まれ)先生は、日本を代表するゲーム研究家。世界のボードゲーム・カードゲームの普及と、失われつつある伝統ゲームの発掘に力を注いでいる。日本アナログゲーム界の最大イベント「ゲームマーケット」の創始者。各種ゲーム会の開催や、著書、連載を通じてアナログゲーム文化の魅力を広く伝えている。2021年、アナログゲーム文化に関する普及・啓発・コミュニティ育成や、アナログゲーム資料の収集保存、ミュージアムの運営などを目的とした一般社団法人「アナログゲームミュージアム運営委員会」を設立。代表理事を務めている。


インタビュー全文
 

らくゆくスタッフ(以下「らくゆく」):
 それではインタビューを始めさせていただきます。よろしくお願い致します。

草場純先生(以下 敬称略):
 はいはい。

らくゆく:
 はじめに「日点・ゲームを楽しむ会 クリスマスゲーム会」は今回で第37回目とのことですが、このゲーム会を始めた経緯を教えていただいてよろしいでしょうか。

草場:
 はいはい。1982年の4月にですね、仲間と「なかよし村とゲームの木」っていう、今もやっている、そして今日も土曜日ですのでやっているボードゲームの会があるんですよ。今日は2,231回目かな。毎週やっているんですよ。で、その会をどこで聞きつけたか、いまは日点(にってん、日本点字図書館の略称。以下「日点」と称する)の用具部長をしているのかな、伊藤さん(注:現在は常務理事)と、それからトミー(現在のタカラトミー)の「ハンディキャップトイ※1」というものをやっている星川さんが直接ゲーム会に尋ねてくれてゲームをやって、その後で「実は…」っていうことで。「目の不自由な人は遊びが少ないので、是非協力してくれないか」って言われて。まあそういうことだなっていうんで二つ返事でお手伝いを始めました。 まあそれがきっかけで、確か1984年ぐらいかな、日本点字図書館で「にってんゲームを楽しむ会」というものを始めました。

らくゆく:
 クリスマスゲーム会には毎年どれぐらいの人数が参加しているんですか。

草場:
 ええとですね、今回は36人ですけど、付き添いっていうんですかね、子供の保護者の方などを全部含めると多い時60人ぐらいだったかな?

らくゆく:
 そのとき大人と子供の比率は大体どのくらいですか?

草場:
 大人と子供の比率はね、まあどの辺を大人というかにもよるんですけども。まあ子供が2割かな? 20%ぐらいですかね、大人の方が多い。大人って言ってもまあ若い人もいますけど。

ボードゲームのボードに貼られた点字のシールを読み取る参加者たち

らくゆく:
 視覚障がいのある方とゲームを行う上で、どういった観点でゲームを選ばれていますか?

草場:
 はいはい、それは非常に明快です。視覚障がいのある方は視覚によって対象を把握するのは困難ですから、視覚に頼らないっていうのが、まあ当たり前ですけど必要になるわけで。で、まあ、主として点字トランプ※2を使ってるんですね。で、点字トランプのポイントはですね、手で持っていると認識は簡単なんですけど、場に置いた状態で点字を読むために触ると動いちゃうんですね。まあ言われればなんだというようなことですけども、実際やってみるとね。それがゲームを選択する上で大きなポイントですね。よく説明するのは「ババ抜きはやりやすいが、七並べはやりにくい」と。

らくゆく:
 それはどういうことですか。

草場:
 七並べというのは、何が並んでいるかを場にレイアウトするじゃないですか。しかしババ抜きは手札のみで行いますから。手札は見やすい。だから、一時が万事、そういう系統の、場にレイアウトする系統のものは何か工夫しないとできない。手札でやるのはそういう考慮は必要ないので。そういうことで、どっちかというと手札でやる系統のゲームになるんですけど、それはそれでね、そっちに偏っちゃうじゃないですか。なので、場に並べるようなゲームで遊ぶためにはその場にモノを固定するような工夫が必要になる。例えば将棋でしたら将棋の駒が入る枠を作るとかね。そういう工夫が必要になるので。まあだから。あの、これは一種の「対話」で、その利用者の方とどんなところが不便ですか?みたいなこと聞いたり、プレイしている様子見て「これはちょっとダメだな」とか「あ、これならできるな」とかいうのを見ながら、常にフィードバックしながらやってますね。

らくゆく:
 ゲーム会の進行をしている時にどういった工夫をなさってますか?

草場:
 ゲーム会はね、あの、今日はあのクリスマスに引っ掛けた会なので人数多いんですけど、普通(=偶数月の第1土曜日に行われる定例会)は十人前後の方が参加されるので、進行っていうほどのことは行っていなくて。ただ、休憩時間はきちんと取らないと。視覚障がいのある方は「じゃあちょっとトイレ行きます」って、すっと立っていくっていうのはなかなか難しくてですね。そういうこともあるので休憩時間をしっかり取ったりしています。それから、これは人数が少ないからできることだと思うんですけども、皆さんの様子、疲れ具合とかを見ながら進めるというのはもちろんありますね。

らくゆく:
 視覚障がいの方に対して特に配慮をしている部分はありますか。

草場:
 これは点字トランプを使うというのが一番はっきりしています。全盲ではなく弱視の方なら「ビッグインデックス」って言って数字やマークが大きいのがありますのでそれを使うこともあります。あとカードや駒に点字を付与するとか、色々な工夫をする方の中には、カードにちょっと切り込みを入れるとかね。そういうような、触覚で認識できるような。そういうのをやるっているのは工夫であり、苦労してるところですね。今日「スウープ」っていうトランプゲームをやるんですけど、このゲームは自分の場に4枚のカードを並べて置くんです。視覚障がいのある方がそのカードの点字を調べようと思って触るとカードが動いちゃうでしょ? 位置が動いちゃうと、まあ少しぐらいならいいんですけど隣に行っちゃったりするとまずいので。で、このゲーム専用の枠をたくさん作って貰ったんですよね。まあ最初は私が試作してね。「これでできるかな?」って作って。「これをたくさん作ってくれますか」みたいなやり取りを日点の用具部の人とやっていきました。あと岡田さんっていう、そういうのを作るのが趣味って言ったらあれだけど、そういうのが好きな人がいて。その人がいろいろ作ってくれて、それをヒントにやってみたり。あるいは自身でオリジナルのゲームを作っている人の中にも、触覚でわかるゲームとか、香りですとか音ですとか、そういった「視覚に頼らずに出来るゲーム」を作っている人もいるので、そういうのも取り入れてやっていますね。

文字が大きいトランプ4枚が手作りのボードに収まっている様子。点字を読む際にカードがずれないように工夫されている

らくゆく:
 これまでゲーム会を実施してきた中で特に印象に残った出来事にどういうものがありましたか。

草場:
 やっぱりそれはコロナですね。視覚に障がいがあると触覚で、例えば点字一つにするにも触っているわけじゃないですか。そうするとね、接触感染系の病気がですね、非常にね。日点の方も神経質になりますし、こっちも気を遣うわけで。だから結局三年ぐらい休んでたのかな。全くやらない時期があって。それまではね、ほとんど。全部じゃないかな? 1回も休んでないんだよね。コロナ前とコロナ後、両方とも。定期的にやってるのは、おそらく1回も休んでないと思うんですよ。まあ、そういっても年6回ですけどね、連綿と続いてきたのがコロナでね⋯。まあ、コロナ以前に来られた方で、まあ高齢化もありますけどコロナ終わってから来られなかった方もありますし。まあそういう意味ではね。コロナはあの、まあ、そのゲーム会の内容ではないんですけど、外的な要素としては非常に印象に残るというか。まあ、事件でしたね。はい。

らくゆく:
 ゲーム会の中では何かありましたか。

草場:
 ゲーム会の中ではね。そうですね。あの、まあ一つ残念なのは、その、だんだん高齢化していくと物故される方もいらしてね。「最近見ないな」と思ったら実は…、みたいなこととか。あるいは、電話があってね。「実は何々さんが…」みたいなことがあると、やっぱりこう40年もやってるといっぱいあります。で、ゲームそのものの内容としてはですね、さっき言ったように対話しながらというかね、フィードバックをしながらやってるので。まあ、すべてが印象深いといえばすべてが印象深いし、「まあ今日のゲームはうまくいったな」と思う時もあるし、「ああ、これはちょっと工夫がいるな」と思ったこともあるし、いろいろですけども。概して教わるっていうのかな?やっぱり自分が晴眼者なので。どうしてもね、相手の気持ちになると言っても全く同じにはなれないので。こっちからの視点では見落とすことがある。そういうところが指摘されてはっとしたり、「あ、なるほど」と思ったり。だから学びですよね、こっちが。「この点字読みにくいよ」とか「点字の位置がここでは取りにくい」とかね。点字って結構位置を正確に取らないと、ちょっとずれただけでね。点1個ずれただけで意味が違っちゃいますので明確にしなきゃいけなかったり。「これじゃやりにくいよ」って言われて「はあ、そうだな」とかね。あの、思うこといっぱいありましたね。

左上に点字が書かれたトランプを扇状に手に持っている参加者の手元

らくゆく:
 今までに行ったゲームの中で特に参加者に好評だったのはどんなゲームですか?

草場:
 んー、まあ、だいたいみんな好評って言えば好評ですけど、今日やる「スウープ」なんてのはなかなかみんな面白いと言いますし、パーティーゲーム系のゲームはワイワイ騒げるのでなかなかいいですね。で、文字を書く系のゲームはというと、要は点字器で点字を書かなきゃいけないわけで。うまくいくと非常に面白いんですけど、割と点字を書くのが苦手な人もいらっしゃるので。その辺は痛し痒しというか。

らくゆく:
 文字を書く系のゲームとはどういうものですか。

草場:
 「みんなで俳句を作ろう」みたいなゲームですよ。(編注:紙ペンゲームの傑作「詠み人知らず(外部サイトの紹介記事)」のことと思われる)。あと回答募集型のゲームとかね。そういうのは、ちょっとやりにくいところがありますね。

らくゆく:
 そういった場合は草場先生が読み上げて? 

草場:
 まあ、大体そんな風になります。あるいは一斉に手を挙げてもらうとかね。私が合図するから賛成の人は一斉に手を挙げてください、みたいな言い方をするとかね。そういうことはありましたね。

らくゆく:
 ありがとうございます。では、なぜこれほど長くこの会を続けられたと思いますか?

草場:
 やっぱりちゃんと通ってくれる人がいるっていうかね。この会は2カ月に1回で結構疎らなんですけどもすごく楽しみにしてくださる方がいて。必ず顔を見せる方とかね。2回に1回は来られる方とか。あるいは逆に何年かぶりに顔見せてくれた方とか。そういう方がいらっしゃるとやっぱり「面白かったね」って言われるのが非常に励みになるとか。当然こちらはそれ目指してやっているのですが、続ける原動力になったかなとは思いますね。

らくゆく:
 次の質問になりますが、今の時代は発足当時と比べて視覚障がいのある方でも楽しめる遊びは増えてきていますが、アナログゲームの意義というのはどのように変化していると思いますか?

草場:
 まあ、確かに今は声で指示してくれたりするようないろいろソフトがあったりして。昔は考えられなかったから。それは非常にいいと思うんですけど、やっぱりアナログゲームはね、晴盲(見える見えない)関係なくですね、顔を合わせてっていうか。その場に臨んでみんなでやり取りする。みんなで雰囲気を味わう。みんなで冗談を言い合う。みたいなね。そういう、なんというか「リアル経験」というんですかね。オフラインならではですね。そういうような空間っていうのがやっぱり一番魅力だし、大事にしていきたいなと思ってるところですね。

黒いハットに赤いティーシャツ、スポーティーなサングラスの出で立ちの男性の視覚障害者が笑顔で山札を引いている様子

らくゆく:
 今後、このゲーム会をどのようにしていきたいと思っていますか。

草場:
 まあ、続けられる限り続けたいんですけども。まあちょっと一時期人数が減った時もあって。まあどうしようかなと思ったところもあるんですけども。思うに、目の不自由な皆さんって、今はいろいろ機会もありますけど、やっぱりそうは言っても楽しみが少ないところあるので来ていただきたいんです。外へ出て行動するのもなかなか難しいと思うんであまり強くは言えないんですけれども。こういう楽しい空間がありながら、それを知らなかったりするのがすごくもったいないのでね。一人でも多くの方にそれを知ってもらって、経験してもらって。それで覚えたゲームをうちへ帰って家族とやったりね、友達とやったりでいいんですよ。それが狙いですから。そういう側にしてくれることが望ましいので、そういう状況が長く続くといいかな。まあクリスマス会は賞品があったりするのもあって参加人数は多いんですけど、普段の会が一桁になっちゃうと、ちょっと寂しいなって感じで。そういうことが続くと、なんかもうちょっとうまい宣伝の方法はないかな?とか、そういうことは考えますけどね。

らくゆく:
 普段どのように宣伝を行っていますか?

草場:
 日点のホームページにあるのと、あとはまあ自分で「今回こんなのありますよ」っていうぐらいで。SNSでね。ちょっとつぶやくみたいなことで。前に日点で出してる冊子に載せてもらったこともありますけども。 あとは口コミですかね。

らくゆく:
 まさにこのインタビュー記事が宣伝になれると嬉しいです。他にこの記事の読者に何か伝えたいことはありますでしょうか。

草場:
 ええとね。やっぱり(視覚に障がいがある方へは)情報が伝わりにくいところがあるので。なので、身近に視覚に障がいある方とか、あるいはそういう人たちと一緒に遊びたいという方いたら遊びに来ていただければと思うんですね。ネットの情報ってね、意外に蒸発しやすい揮発性なんですよ。でね、口コミが一番ね、なんといっても。口コミで伝わった人は本当に来てくれるけど、ネットで伝わった人は来ないんですよね。まあ来ない人ばかりではなくて来る人もいますけど。だから身近にそういう方がいたら「こういう会があるみたいだよ」って一言伝えてくださるだけでもね。実のある伝わり方するので、それはお願いしたいなと思いますね。

らくゆく:
 はい、わかりました。この度は貴重なお時間を頂きありがとうございました。


1984年から続く歴史の中で、参加者の高齢化やコロナなどの変化の波を乗り越えてきた「にってんゲームを楽しむ会」。継続の原動力は、ここを心待ちにする人々の存在と、先生自身の学ぶ姿勢でした。「こういう楽しい空間があるのに知らないのはもったいない」。そんな思いで続けられるこの会が、これからも多くの笑顔、楽しみを生み出し続けることを願ってやみません。もしお近くに興味を持ちそうな方がいれば、目の見え方に関わらず、ぜひこの会のことを教えてあげてください。あなたの一言が、誰かの新しい楽しみの扉を開くきっかけになるはずです。

写真:吉田純一・ノア
文:吉田純一


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脚注

※1 障がいの有無にかかわらず誰もが一緒に遊べるよう工夫されたおもちゃのこと。タカラトミーの「ハンディキャップ トイ研究室」が先駆けて開発し、「共遊玩具(きょうゆうがんぐ)」という概念を広めた。
※2 通常のトランプカードにマーク(スペード、ハートなど)と数字(A~K、Joker)の点字が打たれたもの。日本点字図書館の売店やネットなどで入手できる。