プロローグ
春の新しい展示が始まる時期に合わせ、バリアフリー情報サイト「らくゆく」として、「可能性アートプロジェクト」をぜひ取材したいと考えました。
私自身障がい当事者であり、アートに対して強い関心を持っており、「可能性アート」と出会った瞬間、大きな魅力を感じました。
今回、TOPPAN小石川本社ビルを訪れ、可能性アートプロジェクトの担当メンバーである伊藤さんと、横山さんにプロジェクトについてお話を伺いました。

頂戴した名刺の裏面やノベルティの缶ジュース、くまのぬいぐるみにも「可能性アート」が登場!
おしゃれなデザインに心惹かれ、「アートが印刷された、りんごジュース」は美味しく、アートでつくられたぬいぐるみに思わず笑顔になりました。
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プロジェクトの紹介
「可能性アートプロジェクト」は、2018年より「障がい者の自立支援」、「企業の事業活動」と「人財開発」を組み合わせた新たな試みとしてTOPPANホールディングス(株)が推進している取り組みです。
TOPPANの高精細な画像データ処理技術を活用し、障がいのあるアーティストの作品を付加価値化することを通して、社会的課題解決(障がい者の自立)と経済的事業活動が両立するビジネスモデルを構築することを目指す取り組みです。また、そのビジネスモデルの構築を、TOPPANの企業研修のプログラムとして採用し、次世代リーダーの育成にも活用しています。
この取り組みは外部からも高く評価され、2022年には公益社団法人企業メセナ協議会が主催するメセナアワードにおいて大賞を受賞しました。

プロジェクトのきっかけは、島根県出雲市の「NPO法人サポートセンターどりーむ」との出会いでした。「社員向けに『無限の可能性・才能』をテーマにポスターを描いてほしい」と依頼するところから、始まりました。故・土江理事長から色々とお話を伺い、障がいのあるアーティストの方々の収入がとても少ない状況にあるということ、理事長のお子さんも障がいのある方で、同施設に入っていて「わたしが亡くなる頃にはアートで収入を得ながら自立できるような、そういう社会になっていてほしい」というような言葉とともに、同様のアーティストが日本全国にいらっしゃるということを伺い、2019年から、日本全国のアーティストが作品を発表できる場を提供している「障がい者アート協会」と連携し、取り組みを拡大しています。
「障がい者アート協会」は、日本で唯一国から認定を受けている障がい者アートの著作権管理団体で、適正なアート使用料の算出や登録アーティストへのアート使用料の分配などの取り組みも行っています。
TOPPANでは、作品を募集し社内投票もさせていただき、選定しています。昨年(2025年)の投票では、7000名以上の社員が投票に参加しました。選ばれた作品は、TOPPAN小石川本社ビルの1階コンコースにて展示されるとともに、企業の2次利用にも使用可能なアートとして登録されます。
どの作品も思わず惹き込まれるクオリティで、障がいの有無にかかわらず多様な個性が光ります。投票結果も一部の作品に偏ることなくばらける傾向があり、描く人も選ぶ人も、それぞれの感性が反映されているのが印象的です。
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そして展示されるアートについてもTOPPANの高精細なプリマグラフィー技術を用いて、原画と遜色なく、油絵のような風合いや迫力も再現して製作された物を展示しています。そうすることで、万が一の事故や盗難の心配もなく、さらには大切な作品の原画をきちんと作者のもとにお返しすることができています。
また障がい者アート協会と協力して実施している企業の2次利用採用時のアート使用料の還元の仕組みとして特徴的なのが、採用されたアーティストだけでなく、協会に登録し活動を続ける全員(約2,000人)に分配される点にあります。採用されたアートの作者にはアート使用料の8割が支払われ、残りの2割は協会への登録アーティスト全員で均等に分け合える仕組みです。「誰ひとり取り残さない、みんなで支え合う」・「アートを描き続けるだけで収入につながる」―そのような取り組みです。「裾野を広げていきたい」という「障がい者アート協会」の理念が込められています。
〈活動内容〉
1.展示会の開催
TOPPAN小石川本社ビル1階のコンコースでの展示会をはじめ、過去には京都のお寺での展示会開催、コロナ禍を受けてオンライン・VR展示、さらにはメタバース空間(複数人で作品を鑑賞・語り合える)展示など。
2.人財育成
新入社員研修では、社会課題解決と経済的利益の両立について具体的に考える場として「可能性アートプロジェクト」を題材にワークに取り組んでいます。毎年約400名ほどの新入社員がこのワークを経て現場へと巣立っている。
3.商品やサービスへのアート導入・2次利用
2次利用に活用できる作品数:今年度で550点ほど
アーティストの方々に還元するため、いただいたアート作品をIPビジネスとして、事業部と連携し、幅広く展開。
・導入事例
工事現場の仮囲いは全国100カ所以上で採用され、近隣住民からも好評です。
地域の子どもたちとアーティストがコラボした事例も誕生しました。
ホテルでは、羽田空港直結のホテルの400メートルの廊下に3フロア100作品が並び、アートが彩りを添え、好評です。展示の概要はエレベーターホールで紹介されており、コンセプトルームやノベルティのポストカードにもアートが採用されています。さらには、宿泊費の一部を協会へ還元する仕組みも取り入れられています。
その他、オフィスビルでも採用されています。TOPPANの環境デザイン(建装材)部門で扱う空間デザインとも連携して、アートを活用して空間に彩りを加える事業もスタートしています。オフィス空間の壁紙などへのアート導入を提案することで、空間デザインの新たな可能性が広がっています。
またオフィスや店舗の待合スペースなどを想定したサイネージにアートを月替わりで配信するサービスも昨年からスタートしました。本サービスのような月額配信などを導入いただくことでアーティストをより安定的に支援する基盤を築きいていきたいと思っています。
〈変遷〉
プロジェクト開始当初は、社内でも知名度が低い取り組みだったため、まずは営業に提案に持って行ってもらうための社内向け活動に力を入れていました。徐々に社内の知名度も高まるとともに、プロジェクトの活動に賛同してくれる社内外の方々も増えてきました。いまでは、可能性アートプロジェクトを提案したいと問い合わせが来るほかに公式ホームページを通じたお問い合わせも増えました。
そのおかげもあり企業での2次利用の採用も増え、使用できる作品のストックももっと拡大させていく必要さえ出てきました。
また、展示しているTOPPAN小石川本社ビルには、印刷博物館やTOPPANホール(チャリティーコンサートなども開催)を有しています。それらとの親和性も高く、訪れる皆さまにも作品を熱心にご覧いただいています。さらに、なにか一緒にできるのではないかという外部の方からのお問い合わせも増えています。1つの部門の小さく始まったプロジェクトは、その枠を大きく飛び越えて立派な社会課題解決に向けた1つの大きな可能性となりました。
また作品とデジタルとの共存という点も強く感じています。メタバースでの展開などアナログにこだわらない展開の仕方というのを我々も考えています。それはTOPPANらしさでもあります。
また、新人研修でも実際にメタバース空間を活用し、参加者全員で作品を鑑賞し語り合う機会を設けるなど、その場に居ない、離れた仲間同士でもアートを鑑賞できるとともに「語り合える場」を創出、時代に合った手法に応じて場を創出しながら取り組んでいます。
近年では、アーティストの皆さんの作品の描き方自体も変化してきました。一昨年ごろからはデジタルで作品を描く方がとても多く、今年の採用ではその半分をデジタルアートが占めています。アーティストの皆さんも時代に合わせて新しい可能性に挑戦されているのだと感じています。

次回
次回は、「可能性アートプロジェクト」取材記 後編!
インタビュー【ℚプロジェクトへの取り組みから感じたこと】などをお送りします。
お楽しみに。
(後編はこちら)




