私は視覚障がい(弱視)当事者として、Webサイトのアクセシビリティ診断や記事執筆など、Webに関わる仕事をしています。
2024年4月、事業者による合理的配慮の提供が義務化されたこともあり、「Webアクセシビリティ」という言葉への関心は着実に高まってきました。しかし、当事者がWebサイトを「閲覧する」だけでなく、「情報を発信する(記事を書く)」側に回ると、そこにはまだ多くの高い壁が存在しています。

今回は、私がWeb記事作成の現場で直面した「3つの壁」と、それを乗り越えるための試行錯誤についてお伝えします。

目次

執筆作業でぶつかった「3つの壁」

パソコンのモニターに表示されたプログラムのソースコード

記事を一本書き上げるまでには、文章作成以外にも多くの工程があります。
その中で特に苦労しているのが以下の3点です。

  1. 文章校正の壁:全体像の把握が難しい

    記事を作るためには、まず文章を書かなければなりません。私は画面を拡大して作業していますが、拡大率を上げると一度に目に入る情報量が限られます。そのため、長文を書いていると「漢字の誤変換」や「文脈の矛盾」「一つの文章内で同じ単語を繰り返し使ってしまう」といったミスに気づきにくく、修正にも時間を要します。

  2. 画像設定の壁:色の判別とALT属性

    Web記事にもう一つ欠かせないのが「画像」です。しかし、ただ画像をアップロードしただけでは、音声読み上げソフトを使っている視覚障がい者に、それがどんな内容の写真やイラストかまでは伝えることができません。

    そのため、画像にはALT(代替テキスト)という説明文を入れて、読み上げソフトで音声情報として認識させる必要があります。ALTの内容は画像の内容(被写体の色や形、人物の特徴など)を具体的に、かつ適切な文字数(80文字程度)で記載します。音声のみで記事を読む人にも、目視で閲覧する人と可能な限り同じレベルの情報を提供するためです。

    一見簡単な作業に見えるかもしれませんが、障がい特性により画像(特に写真)の細かな色味を把握することが難しい私にとっては、これが一番苦労します。過去には、明るいベージュの靴が並んでいる写真を見て、「白い靴」だと思い込んでALTに書いてしまい注意されたこともありました。

  3. システム(CMS)の壁:操作ボタンが読み上げられない

    『らくゆく』記事編集画面。サイドメニューやエディタ内にアイコンボタンが多数並ぶ

    ▲筆者が普段利用している「らくゆく」の投稿画面。見やすさを考慮し、画面はWindowsの設定でハイコントラスト(白黒反転)にしていることが多いです。

    画像と文章を用意し記事として投稿する際、多くの場合はCMSという投稿用のシステムを利用します。近年のCMSの多くはブラウザから操作可能で、文章をWeb用に読みやすく整えたり、画像や動画をアップロードしたりするためのさまざまな機能が装備されています。

    しかし、音声読み上げソフトでうまく読み上げられない投稿画面は、視覚障がいをはじめとして多くの障がい当事者が利用に不便さを感じるものになりかねません。投稿画面の操作ボタンや入力フォームも音声読み上げソフトでの利用に配慮した構造になっていないと、人によっては「何をするためのページなのか」が全く分からず、投稿作業そのものが難しくなってしまいます。

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壁を乗り越えるために、工夫していること

虫眼鏡で拡大された『試行錯誤』の文字

さまざまな課題がある中で、現在解決のために試していることについても紹介します。近年はAIの進歩により、視覚障がい者でも工夫できることが増えてきました。

  1. AIによる画像解析の活用

    色の判別が難しい画像は、AIに読み込ませて「この画像の内容を説明して」などと指示し、ALT属性を作成するヒントにしています。またGeminiでは独自にコマンドを作成できるため、原稿のスクリーンショット画像の内容を推測してALTを提案するように設定しておくと便利です。

    ただし、例えば「階段を上っている女性の画像」を読み込ませた時、「階段を降りていく女性の画像」と解説されてしまうなどの誤認識も起きるため、目視でのチェックも忘れないようにしましょう。

  2. 音声入力&ここでもAIで文章作成も快適に

    文章を誤字脱字なくスムーズに書くためにも工夫をしています。
    多少大雑把でもOKな下書きの段階では、WindowsやGoogleドキュメントの音声入力で文章を入れていけば、タイピングのストレスが激減します。ただし、日本語は「表記ゆれ」が多いため、清書に使うにはまだ難しい印象があります。

    そこで、ここでもAIの出番です。Geminiなどのアプリに下書きをコピペすると、体裁の調整や誤字脱字の修正作業もスムーズになりました。もちろんAIも万能ではなく、誤字脱字を完全になくすためには2~3回ほど修正を要しますが(使用するアプリによって精度は異なります)、大幅な時短になっています。
    また、内容の正確さや文脈の抜け落ちがないかといった最終確認には、やはり目視の力が欠かせません。

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まとめ

現在、Webアクセシビリティの世界では「障がいの有無や年齢に関係なくWebサイトから情報収集ができる環境づくり」を目指して整備が進んでいます。しかし、SNSやブログが浸透している現代社会では、障がい者が情報を収集するだけでなく発信していくことも社会参加の一環だと私自身は考えています。

今後、より多くの障がい当事者がストレスなく自分の想いを発信でき、それが当たり前に受け入れられる社会になることを願っています。

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文/野崎恵美子(網膜色素変性症)

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