東京・天王洲アイルの運河沿いに位置する、寺田倉庫が運営する現代アートと建築のミュージアム「WHAT MUSEUM」。
同館の「建築倉庫」では、これまで建築模型の保管・展示を通じて専門的な建築の思考を広く発信してきた。今回、新たな切り口の展覧会を開催している。

2026年4月21日(火)から9月13日(日)まで開催されている「波板と珊瑚礁 - 建築を遠くに投げる八の実践」だ。

本展に並ぶのは、主に2010年以降に活動を始めた気鋭の建築家8組が、本展のために制作した渾身の新作模型や映像、空間構成の数々。しかし、ここで目にするものは、私たちがよく知る“ビルや住宅の完成予定図としての精緻なミニチュア”ではない。言葉や図面では捉えきれない、建築家たちの哲学や世界への眼差しそのものを物質化した「思考の装置」なのだ。

異なる時間とスケールが共存する「波板と珊瑚礁」

まず目を引くのが、その詩的で不思議な展覧会タイトルだ。情報技術の進展によって短いサイクルでの応答や更新が求められる現代において、本展は「長い時間の中で環境や社会との関係を構想する視点」を問い直そうとしている。企画協力したSUNAKI(砂山太一)らによると、「波板と珊瑚礁」という言葉は、異なる時間やスケール、生成の速度が重なり合いながら共存する状態を示す間接的な比喩だという。

「いま目の前にある現実を少し遠くに置き、遠くにある未来を手元に引き寄せて思考すること」

このコンセプトの通り、会場にはダイナミックかつ実験的な展示が広がり、訪れる者の身体感覚を揺さぶってくる。
フロアーはフラットで、車いすで安全に鑑賞できる。ゆっくり、じっくり鑑賞しよう。

WHAT MUSEUM入口

建築の枠組みを拡張する「8組の実践」

会場では、模型を単なる縮尺物ではなく「概念や思考の断片を担うメディウム(媒体)」として捉えた、バラエティに富んだ建築的アプローチが展開されている。

ALTEMY + risa kagami『往還する身体』

「往還する身体」の展示壁面。左側に解説パネル、右側に図面や映像が表示された黒いモニターが設置されている様子

ALTEMY + risa kagami「往還する身体」

車いすに乗っている自分の姿が手前のスクリーンに投影されている

ALTEMY + risa kagami「往還する身体」

天井から吊るされた半透明のスクリーンに、紫色の光をまとった人影のような映像が投影されている様子

ALTEMY + risa kagami「往還する身体」

複数の半透明スクリーンが奥行きをもって配置され、様々な色の光や都市の風景、人影が何層にも重なって投影されている展示空間の全景

ALTEMY + risa kagami「往還する身体」

建築やランドスケープ、モビリティ、ファッションなど分野を問わず設計を手掛けるスタジオ。都市を闊歩する人々のシルエットがブレているような、身体と空間の新たな関係性を予感させる展示が印象的だ。天井から吊るされたスクリーンに渋谷の街・ミュージアム内・展示室内にいる人がそれぞれリアルタイムで映し出されることで自身の身体も作品の一部となる。

ガラージュ『ほどかれた結界』

展示室全体に木製の低いベンチのような構造物が蛇行して並び、その周囲に半球型の白い土台から伸びる細い棒と、それらをつなぐ細い針金が張り巡らされている様子

ガラージュ「ほどかれた結界」

白い半球型の土台から垂直に伸びる数本の細い木の棒と、それらの間をうねりながら緩やかにつなぐ細い針金のクローズアップ

ガラージュ「ほどかれた結界」

建築・映像・演劇の専門領域を持つメンバーによる建築集団。建築を「変化しつづける事象の一過程」と捉え、空間を仕切る境界をほどくような原寸大のスタディを想起させる。地鎮祭の結界をイメージしたような半球型の土台に棒が据え付けられている。それらを針金状の線でつなぎ合わせることで、揺れ合いながらも互いに支え合っているように並べられている。作品を自由に触ってみよう。
 

GROUP『都市と眠り』

ファーストフード店を模した白いテーブルと椅子が、不気味な緑色の照明に照らされている展示空間。奥の壁には四角い発光するパネルが設置されている

GROUP「都市と眠り」映像:稲田禎洋

木目調の床の中央に設置されたベッド型のスクリーン。スクリーン上には青白い光とともに、横たわる人の姿や文字のような映像が投影されており、ベッドの周囲には白い破片が散らばっている様子

GROUP「都市と眠り」映像:稲田禎洋

建築設計・リサーチや施工まで行う建築コレクティブ。建築プロジェクトを通して異なる専門性を持つ人々が仮設的に共同できる場を模索する彼ららしく、都市の夜や環境のバイオリズムが溶け出すような空間を提示する。
ありふれた都市にあるファーストフードの一角。この作品をボーっとみていると知らぬ間に眠気に襲われている自分に気が付く。ベッド状のスクリーンに寝ている人が映し出されている。都会の名も知れぬ景色が、眠りを通して芸術の高みへ昇華していく。
 

Office Yuasa『闇、遅れた微光』

消灯した展示室の全景。緑色に淡く光る5組の読書台が並び、背後の緑色の蓄光壁には、それまでそこにいた人々の姿が黒い影の残像として複数浮かび上がっている様子

Office Yuasa「闇、遅れた微光」
Photo by Keizo KIOKU

読書台に座る車椅子の男性が、頭上から吊るされた1個の大きな裸電球を点灯させ、その強い光の下で開かれた本を見つめている様子

Office Yuasa「闇、遅れた微光」

消灯後の展示室。蓄光によってテーブルが緑色に怪しく発光しており、その上に2台のスマートフォンが置かれている様子

Office Yuasa「闇、遅れた微光」

緑色に光るテーブルの上からスマートフォンを持ち上げた跡に、スマートフォンの形をした四角い光の残像がくっきりと残っている様子

Office Yuasa「闇、遅れた微光」

蓄光を施した壁一面と5組の読書台に来場者の点灯と読書の痕跡が消灯後に燐光として現れる。部屋の中は、明るくなったり暗くなったり変化するが、自分の影になっていた部分が影として残り続け時間の経過を感じる事ができる作品。スマートフォンを裏返して置くと画面の光が残像として残る。
 

畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ「What is 〇△□?」

フローリングの展示室の全景。左側の床には白い円形(○)の領域、奥の壁には逆三角形(△)の赤いペイント、右前方の床には上部が青い直方体(□)の柱が配置されている様子

畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ
「What is ○△□?」Photo by Keizo KIOKU

フローリングの床に設置された大きな白い円形のシート。その上には、小さな丸い石のようなオブジェクトが、きれいな同心円を描くように規則正しく並べられている様子

畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ「What is 〇△□?」山田愛「〇」

白いシートの上に並べられた丸い石のクローズアップ。白や薄いグレーの小さな石が、等間隔で緩やかなカーブを描きながら並んでいる様子

畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ「What is 〇△□?」山田愛「〇」

白い壁に描かれた大きな赤い逆三角形(△)の作品を、2人の来場者が背後から見上げ、手を伸ばして指さしながら学芸員の方が説明している。後ろで来場者が鑑賞している様子

畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ「What is 〇△□?」原田健太郎「△」

上部が鮮やかな青色の質感を持つ直方体(□)の柱の前に、車椅子に乗った男性が背を向けて佇み、じっと作品と向き合っている様子

畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ「What is 〇△□?」畠山耕治「□」

アーキペラゴアーキテクツスタジオが過去に手がけた3つの建築をモチーフにアーティストが作り上げた作品。まる・さんかく・しかくを私たちは本当に知っていると言えるであろうか。もし〈あるがまま〉に観ることが可能だとしたら、そこに「ある」もの、あるいは「ない」ものは何なのだろうか?
 

DOMINO ARCHITECTS『PULP FICTION (jetway)』

木製の台座の上に設置された、空港の搭乗橋(ジェットウェイ)を複雑に連結した白い巨大な空中回廊の模型。下から見上げるようなアングルで、柱やトラス構造の細部が強調されている様子

DOMINO ARCHITECTS「PULP FICTION (jetway)」

展示室の広い木床の中央に置かれた、作品の全体像。何本もの木製の四角い柱に支えられた白い紙製の搭乗橋模型が、部屋いっぱいに広がっている様子

DOMINO ARCHITECTS「PULP FICTION (jetway)」
Photo by Keizo KIOKU

展示室のグレーの壁に掛けられた数枚の図面パネルの前に、車椅子に乗った男性が背を向けて佇み、じっと見つめている様子

DOMINO ARCHITECTS「PULP FICTION (jetway)」を撮影したものが写真作品として展示されている

「思想実験を保存観察するための模型。ずっと思い描いている空間がいくつかある。空港にある可動式の搭乗橋を連結してできた空中回廊。搭乗ゲートをくぐって飛行機に乗るまでの間の、あの機能的で象徴的で刹那的なスロープをいつまでも歩いていられる。入口も出口もないし、永遠に飛行機に乗れないけれど。」
部屋いっぱいに鎮座するこの模型。圧倒的な大きさに驚くが、この模型は、全て紙で出来ていて、この模型のために図面を引いて、切り出された模型だそう。消えることのない搭乗前のわくわく感。空想の中で思う存分味わってほしい。


平野利樹『東京箱庭計画』

展示のメインディスプレイ。中央のメタリックシルバーの都市模型を囲むように、生成AIで出力された赤・青・黄色の複雑な造形物が配置され、背後の壁にはカラフルなマップが大きく投影されている様子。台座の下には「東京箱庭計画」と書かれたピンクのネオンサインがある

平野利樹「東京箱庭計画」
箱庭に配置された物体から生成AIによって3Dのモデルを作り上げた作品

「作品の元になった箱庭」の展示。ファーで縁取られた四角い砂箱の中に、青い川のパーツやカラフルなミニチュアの玩具、植物などが雑多に配置されている様子。奥にはそれをスキャンするモニターが見える

平野利樹「東京箱庭計画」
作品の元になった箱庭

「あなたの箱庭」と書かれた体験スペース。ミントグリーンのファーで囲まれた砂箱があり、中には人形やミニカーなどのおもちゃが置かれている。観客がこれらを自由に動かすことで、奥にあるモニターを通じて生成AI処理が体験できる

平野利樹「東京箱庭計画」
観覧者が会場に用意されたアイテムを自由に無意識に動かし箱庭をつくり生成AI処理される

箱庭療法の手法や生成AIをとおして物質化された個人の無意識・オブセッションを東京湾を対象に都市スケールのプロジェクトに投影する方法論の実験をおこなう。


RUI Architects『Prop』

手前に開かれた資料が並ぶ展示台があり、奥のフローリングの床に複数の模型、右側の壁には天王洲周辺の地図が展示されている、RUI Architects『Prop』の展示室の全景

RUI Architects「Prop」

多角形の白い台座の上に、天王洲の街並みや道路、建物を部分的に切り取って再現した、上から見下ろす形の都市模型

RUI Architects「Prop」

模型のクローズアップ。実在するドミノ・ピザの店舗外観や看板、高架の柱のような構造物が細部までリアルに再現されている様子

RUI Architects「Prop」

「街を歩いて気になった場を模型にしてみると、矛盾だらけの世の中で、どうにか折り合いをつけてきた事物らが語りだしてきた。そこにあるユーモアやどうしようもなさを掬い上げることができるだろうか。」
天王洲周辺の景色を切り取り模型を作っている。この場所は展示された地図に表示されている。写真を撮って、実際の場所に行ってみて比較する楽しみも秘めている。

ショップ

WHAT MUSEUMのショップスペース。手前や壁際に木製の陳列台が並び、展覧会の関連書籍やTシャツ、雑貨などの関連グッズが多数販売されている様子

エントランスのミュージアムショップでは関連グッズが所狭しと並んでいる
 

バリアフリー情報

公式音声ガイド

黒い受付カウンターの上に設置された案内板。「東京観光案内」の青いサイン、ナビゲーターの市川紗椰さんの写真が載った「音声ガイドのご案内」の青いPOP、そして「Wi-Fi」の接続案内が並んでいる

受付の所にある音声ガイドの案内板

館内ではモデルの市川紗椰さんがナビゲーターを務める公式音声ガイド(日本語・英語)が、アプリ経由で無料で利用できる。彼女の落ち着いたスマートな解説に耳を傾けながら作品を巡ることで、難解に見える建築家の思考が驚くほど滑らかに頭に入ってくるのも魅力的だ。また館内では無料WiFiがある。

バリアフリートイレ

展示スペースの入口付近にあるバリアフリートイレの外観。白い大きなスライドドアの前に、車椅子に乗った男性が移動しようとしている様子
バリアフリートイレの内部。温水洗浄便座の左右に手すり(片側は跳ね上げ式)が設置されており、手前には背の低い洗面台、奥にはオストメイト対応の設備が備わっている様子

バリアフリートイレは、展示スペースの入口にある。スライドドアのため難なく利用することができる。観覧前にトイレを済まして落ち着いて観覧しよう。(注)バリアフリートイレは、この1カ所のみ。

コインロッカー
入口付近にコインロッカーがある。

駐車場
一般用駐車場はないが、障がい者専用の駐車場は事前予約制で利用できる。
 

建築倉庫

建築倉庫の内部。天井の配管が露出した広い空間に、何列もの白いスチールラックが並び、段ボール箱や様々な建築模型が整然と保管・展示されている様子

有名な建築物の建築模型が多数並んでいる

ワークショップの様子。木製のテーブルの上で、女性スタッフが車椅子の男性に来場者向けのカラフルな立体模型の組み立てキットを差し出し、説明しているカット

模型に触れながら楽しく建築を学ぶことができるエリアも

WHAT MUSEUMの建築倉庫では、建築家や設計事務所からお預かりした800点以上の建築模型を保管し、倉庫内でその一部を公開している。建築模型を軸に建築の魅力を発信するため、企画展を多数開催してきた。建築模型を用いた企画展示やワークショップ、イベントも定期的に開催している。


取材を終えて:建築を「見る」から「体験する」へ

建築というと専門的で難しそうなイメージがあるが、車いすでも安全に楽しく観覧できる。

通常の建築展であれば、完成した建物の美しさを愛でる視点が求められがちだ。しかし本展は、直接空間に入り込むような体験や映像を通じて、専門知識の有無を問わず「建築家の脳内をトリップする」ような感覚を味わえる。
模型というメディアを通して、私たちは普段見ている日常の景色や都市のあり方を、全く異なる視点から捉え直す機会を受け取る。彼らが投げた「建築」というボールが、どんな未来にソフトランディングするのか。そのスリリングな思考実験の数々を、ぜひ会場の空気感とともに目撃してほしい。

 

【開催概要】

展覧会名:波板と珊瑚礁‐建築を遠くに投げる八の実践
会期:2026年4月21日(火)~2026年9月13日(日)
会場:WHAT MUSEUM(東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間:11:00~18:00(最終入館17:00)
休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)
入館料:一般:1,500円   大学生・専門学生:800円   高校生以下:無料   ※日時指定のオンラインチケットは200円割引   ※会期中何度でも入れる「展覧会パスポート」(2,500円)や「セットチケット(展覧会+建築倉庫)」(2,000円)も販売
障がい者割引:500円(障害者手帳提示)

アクセス:東京モノレール「天王洲アイル駅」より徒歩5分   りんかい線「天王洲アイル駅」B出口より徒歩4分

音声ガイド:無料(公式アプリとご自身のスマートフォン・イヤホンを使用、ナビゲーター:市川紗椰)

主催:WHAT MUSEUM
企画:WHAT MUSEUM建築倉庫、SUNAKI

映像:瀬尾憲司
グラフィック:鈴木哲生

後援:品川区、品川区教育委員会

写真:寺川健一・高瀬翔太 文:小川陽一

WHAT MUSEUM HP