はじめに
2000年の開館以来、電気音響を使わない「完全アンプラグド」の室内楽専用ホールとして高い評価を得ている「TOPPANホール」。来場者の高齢化や多様化が進む中、同ホールでは最高峰の音響空間を維持しながら、いかにバリアフリーやアクセシビリティに対応していくかが重要なテーマとなっています。
本レポートでは現地取材をもとに、厳格な音響設計という「ハード面」と、現場スタッフの緻密な連携という「ソフト面」の双方から運用のリアルを紐解き、クラシックホールにおけるバリアフリーと今後の展望を考察します。

ステージから見た様子

1. TOPPANホールの基本概要と音響設計のこだわり

TOPPANホールは、凸版印刷(現・TOPPANホールディングス)が創立100周年記念事業の一環として2000年10月にオープンしたクラシック音楽専用の室内楽ホールです。客席数は408席(車いす席を含む)と、演奏家と観客の距離が近いプライベート感あふれる空間でありながら、繊細な音の立ち上がりと豊かな余韻を両立させた屈指の音響性能を誇ります。

・舞台・音響構造の特徴

音響反射板の一体型傾斜壁面:一般的な大ホールのように天井から巨大な音響反射板を吊り下げ・昇降させるのではなく、舞台壁面自体が最適な角度で固定されています。これにより、室内楽に特化した最適な残響環境が常に整えられています。
「アンプラグド(完全生音)」の徹底:PA(電気音響増幅)設備やアンプ・スピーカーを通した補声を行わず、生楽器本来のナチュラルな響きをそのまま届けるコンセプトが貫かれています。

ステージの背後から観客席の側まで貼られている音響反射板

2. 観客のバリアフリー対応と現場スタッフの「ソフト面」によるカバー

クラシックコンサートの来場客層は高齢化が進んでおり、杖を使用される方や車いすを利用される方の割合が高まっています。今回の取材では、ハード(設備)面の限界をスタッフの高度な連携(ソフト面)でカバーする現場の運用実態が明かされました。

・車いす席と可変座席ユニット

客席内には車いす対応の着脱式座席ユニットが設置されており、通常時は一般席として使用し、車いすでの来場時には取り外すことで最大3台分(組み合わせにより調整可能)のスペースを確保できます。
館内には常備車いすが「表(客席側)」と「裏(バックヤード側)」に各1台(計2台)配備されており、日常点検や建物の診断に加え、高齢者・障がい者が多く来場するイベント前には独自に安全テストを行うなど、入念な管理が行われています。

中央通路の上手側の5席は着脱式で車いす3台分に変更可能

実際に取り外した席

・レセプショニストによるチームコミュニケーション

ホールには専任レセプショニスト(案内係:通常6名体制)がいて、質の高い案内・誘導が提供されています。
綿密な情報共有:全席指定のみならず自由席公演においても、「手助けが必要なお客様や車いす・杖のご利用者がどの座席に着席されたか」をスタッフは情報をチーフに集約し、全員で共有しています。
緊急時・避難時の安心感:災害や急病人発生時に誰がどの位置にいるかをチームで把握しておくことで、即座に優先救護へ向かえる体制を構築しています。
柔軟な移動サポート:「座席までは自分で歩ける」という車いす利用者の場合は、一旦近くの通路で車いすをお預かりし、休憩時間や終演時にお渡しする細やかな声かけ・手伝いを行っています。

ホワイエを入り右側にあるクローク

クローク内部(奥に車いす有)

・立地条件と事前来場把握

TOPPANホールは最寄り駅(飯田橋駅・江戸川橋駅・後楽園駅)から徒歩10〜15分ほどの距離にあり、予約なしで当日券を購入し来場する車いす利用者は極めて稀です。多くのバリアフリー利用者は事前にお問合せや下調べをして来場するため、事前にスタッフ側でも把握できているケースがほとんどとなっています。

3. 障がい者アクセシビリティ・多様性へのアプローチと課題

見学時のやり取りでは、視覚・聴覚に障がいのある方や多様なお客さまを迎え入れるにあたっての深い考察が行われました。

写真左:常務取締役支配人 矢野達也氏 写真右:営業開発部長 金沢紀子氏

・盲導犬・補助犬への配慮

補助犬を伴う来場者の受け入れ体制は整えられているものの、周りの観客の中にはアレルギーを持つ方や、動物が近くにいることに慣れておらず不安を感じる方もいます。お互いが快適に過ごせるよう、スタッフによる座席配置の配慮や調整が欠かせません。

・聴覚障がいと生音ホールのジレンマ

障がいのグラデーション:完全に聴覚を失っている方には「振動」を通じた音楽体験、特定の周波数が聞こえづらい難聴の方には音域の考慮など、状態に応じたアプローチが考えられます。
アンプラグドホールの特性:マイクやアンプを使用しない「生音(アンプラグド)」を理念とするTOPPANホールでは、補聴用PA設備や電気的レシーバーを常設することがホールの根本的なコンセプトと矛盾するため、どのようにアクセシビリティと音響コンセプトを両立させるかが課題として議論されました。

Webアクセシビリティと「情報の見える化」

バリアフリー対応(車いす席や車いす動線など)の情報を公式Webサイトでわかりやすく開示・更新することが、障がいがある方が安心して来場するための大切な第一歩となります。

ホワイエに木製の案内板

上手側のスロープで車いすスペースへ

Webアクセシビリティの診断や「ここまで対応できている」という取り組み姿勢(意思表示)を公表していくことで、これまでコンサートホールへの来場を躊躇していた潜在ユーザー(障がいのある音楽ファン)を開拓していく可能性が示唆されました。

バリアフリートイレは自動開閉スライドドア完備

バリアフリートイレ内部

4. バックヤードと地域社会とのつながり

・広いバックヤード動線

TOPPANホールは複合ビル内に位置しているため、車道や搬入路、バックヤード(楽屋スペース)が極めて広く設計されています。大型のフルコンサートグランドピアノの搬入はもちろん、アーティストや車いす利用者の移動が交差することなくスムーズに行える構造となっています。

ステージ裏のグリーンルーム入口付近

楽屋Bに設置されたグランドピアノ

楽屋Dに設置されたアップライトピアノ

中央に間仕切りを設置可能

搬入経路にあるスロープ

スロープからステージの上手側へ直結

・地域社会への貢献

隣接する文京区の施設や地域社会との連携の一つとして、小学校の学外演奏会への無償貸出を継続的に行っており、地域に開かれた文化拠点としての役割も果たしています。

5. TOPPANホールへのアクセス情報

TOPPANホールは「TOPPAN小石川本社ビル」1階に併設されています。複数路線・駅から徒歩圏内にあるため、アクセスしやすい立地です。

電車でのアクセス 

・東京メトロ有楽町線「江戸川橋駅」(4番出口):徒歩約8分  
・東京メトロ丸ノ内線・南北線「後楽園駅」(1番出口):徒歩約10分 
・JR総武線「飯田橋駅」(東口):徒歩約13分  
・東京メトロ各線・都営大江戸線「飯田橋駅」(B1出口):徒歩約13分

バスでのアクセス  

・都営バス【上69】(上野公園~小滝橋車庫):「大曲」または「東五軒町」バス停より徒歩約2分  
・都営バス【飯64】(九段下~小滝橋車庫):「大曲」または「東五軒町」バス停より徒歩約3分  

駐車場(お車でお越しの場合) 

 ・ビル地下にTOPPAN小石川本社ビル地下駐車場(B2F)が完備されています。
・営業時間:6:00~23:00  
・料金:20分 200円(※ホール来場者向けの割引制度あり。駐車券を持参の上ご来場ください)
・車いす専用駐車場がございます。
隣接エレベーターにて1階ホール入口までお越しください。

車いすでのご来場

ホール入口までお越しください。スタッフが、お席までご案内いたします。詳しくは事前にご連絡いただいた際にご案内いたします。

地下駐車場からエレベーターでホールへ

開場まで時間がある時に便利なベンチ

6. TOPPAN小石川本社ビル内の情報

・印刷博物館

印刷の歴史と技術を学べる博物館です。ミュージアムショップ、印刷関連図書を閲覧できるライブラリーなども併設しています。
[入場料]
※障害者手帳(アプリ含む)をお持ちの方、および付き添いの方1名は無料となります。
一般:500円(団体450円)
学生:200円(団体150円)
高校生:100円(団体50円)
中学生以下および70歳以上の方は無料

営業時間10:00~18:00(入場は17:30まで)休館日:月曜日(ただし祝日の場合は翌日)、年末年始、展示替え期間  TEL03-5840-2300(代)

企画展(入場無料)

【開催中】80 GRAPHIC TRIALS —クリエイター80組とTOPPANによる挑戦の20年—グラフィックデザインと印刷技術が切り拓く表現の可能性。プロジェクト発足20年を記念し、歴代クリエイター80組によるポスター全400点を3期にわたり一堂に展示!

印刷博物館の企画展示は観覧無料

80 GRAPHIC TRIALS

・小石川テラス

TOPPAN小石川本社ビルの2階にあるレストランです。
営業時間 LUNCH 11:30~14:30 CAFE 14:00~17:00 TEL03-5840-2846

・ハートフル カフェ

TOPPAN小石川本社ビルの2階にある木のぬくもりを感じるくつろいだ雰囲気の喫茶スペースです。
営業時間11:30~17:00 TEL03-5840-2855

小石川テラス

ハートフル カフェ

小石川テラスのランチ ビーフシチュー定食

7. 取材のまとめ・所感

TOPPANホールは、洗練された建築音響とデザインだけでなく、「スタッフ同士の密な情報共有と温かいホスピタリティ」によって高いバリアフリー対応能力を実現しているホールでした。
設備やPAの有無といったハード面の条件がある中でも、「スタッフ一人ひとりが来場者の状況を察知し、連携してサポートする」という運用姿勢こそが、すべてのお客さまに安心して音楽を楽しんでもらうための鍵となっています。
今後、Web情報の充実やアクセシビリティの見える化がさらに進むことで、より一層多様な人々から愛されるホールへと発展していくことが期待されます。
最後に取材にご協力いただいた常務取締役支配人 矢野達也様、営業開発部長 金沢紀子様、お忙しい中本当にありがとうございました。何かございましたら、らくゆくは全力で応援させていただきます。
らくゆくを見ていただいている皆さん、是非TOPPANホールに生音のライブを見に、聴きに来てください。よろしくお願いいたします。

らくゆくスタッフ

写真・文:小川陽一 コーディネーター:松尾深志

TOPPAN HALL オフィシャルWEBサイト
印刷博物館HP
グラフィックトライアルHP