東京・浅草橋。隅田川と神田川の情緒が漂い、秋葉原や浅草にもほど近い交通の要所に位置する「浅草橋ベルモントホテル」。老舗ホテルとしての歴史と温かみのあるおもてなしで愛される同ホテルが、ここ数年で本格的なバリアフリー化(ユニバーサルデザイン化)を推し進めています。 今回、バリアフリーな宿泊施設の情報サイト「IKKEL」掲載のため、スタッフが訪問しました。らくゆく編集部は撮影・計測が行われている実際の客室に密着し、同ホテルの鈴木社長にバリアフリー化のきっかけや苦労、そして地域活性化にかける熱い想いを取材しました。

1. 改装のきっかけ:単なる見た目のリニューアルを超えて
創業から40余年を誇る浅草橋ベルモントホテル。ここ数年で段階的な客室リフォームを実施しており、その中心にあるのが東京観光財団などの補助金を活用したバリアフリー対応です。しかし、単に設備を新しくするだけでは「本当に車いすユーザーや高齢者が使いやすいのか」という課題に直面したと言います。

部屋の確認事項をチェックします
―― バリアフリー化に取り組み始めたきっかけと、今回のIKKELへの掲載をご依頼された理由は?
鈴木社長:「ここ2〜3年、東京都の補助金も活用しながら順次客室の改装を進めてきました。しかし、行政の基準をクリアして部屋が完成しても、『本当に障がいがある方が使いやすいのか?』『他に必要な対応や備品はないのか?』という経験値が私たちにはまだ少なかったのです。 バリアフリーといっても、車いすの種類や身体の状況、障がいの多様性によって求められるものは一人ひとり異なります。専門的な知見を持つIKKELさんに客観的な計測・調査を行っていただくことで、当事者目線の細やかな使い勝手や改善点を知りたかったのが大きな理由です」

計測前にバリアフリーのポイントなどの聞き取りをします
2. 調査撮影現場で見えた「ユニバーサルデザイン」の難しさと工夫
IKKELでは実測は開口部幅、段差、ベッド高さ、洗面台、机の高さなどに実施します。後は、3D空間スキャナーを撮影することで賄います。バリアとなる箇所を写真を撮影します。同時にシャワーチェアーや、バスボードなどの福祉機器の提案など、改修ではない提案も行います。

バスルームの開口部幅を計測しています
![]() 部屋の数カ所を3D空間スキャナーで読み取ります | ![]() 読み取りするとモニターに表示され、不足箇所がないかチェックしていきます |
大胆な部屋数見直しによる空間創出:
従来のビジネスホテルサイズの狭さを解消するため、例えば「5部屋あったフロアを3部屋〜4部屋に統合」する大胆なレイアウト変更を実施。客室面積を広げ、車いすでも転回しやすい十分なスペースを確保しています。
![]() 廊下のスロープの説明をしていただきました | ![]() 薄い色の所がスロープになっています |
ユニットバスの段差解消と床のかさ上げ:
水回りの段差を完全に無くすため、フロア全体の床面自体を持ち上げる工事を敢行。段差のないフラットなアプローチを実現しました。
しかし、物理的な設備を整えるだけでは完璧とは言えません。鈴木社長は「専門的な仕様だけに固執するのではない難しさ」を明かします。
「車いすの方だけに特化した設計にしてしまうと、今度は一般のビジネスマンや観光客の方が使いにくくなったり、商売として成り立たなくなってしまいます。『誰もが使いやすくて便利、その結果としてバリアフリーにもしっかり対応している』というユニバーサルデザイン(UD)のバランスに、設計士の方とも一番頭を悩ませました」(鈴木社長)

85インチのTVモニターが目を引きます。左にある冷蔵庫は車いすでも使いやすいよう高い位置に設置されています
例えば、車いすが旋回できるように確保した広い床スペースは、一般の観光客にとっては「大型スーツケースを2個開いたまま楽々置ける空間」として絶大な評価を得ています。また、使いやすい高さの設備や巨大モニター設置の部屋など、エンターテインメント性と使いやすさを両立させた客室づくりが実を結んでいます。
![]() エレベーターは6人用と9人用の2基で稼働しています | ![]() 廊下などの装飾に田中孝弘氏による江戸組子があります |
3. 設備(ハード)を補う「人」と「情報」のソフト対応
ホテル側の経験不足を補うために重要なのが、スタッフによる柔軟なサービス対応と事前コミュニケーションです。
![]() 部屋とバスルームの床は段差がないことが分かります | ![]() 水回りは明るいシステムバスです |
―― 接客やソフト面でのこだわり、今後の課題について教えてください。
鈴木社長:「マニュアル化したトレーニングはまだ途上ですが、当ホテルのスタッフは心優しく、お客様の困りごとにすぐ気づいて助け合う文化があります。過去には『屋外の喫煙スペースにわずかな段差があって車いすで行けない』という海外のお客様に対し、簡易灰皿をお貸しして吸える場所までお持ちし、回収する対応をして非常に喜んでいただけたこともありました。 また、車いすのサイズや身体の状況は人それぞれです。予約時に単なる備考欄ではなく、『お身体の状態や必要なご要望を気軽にお書きください』と促すカスタマイズや、直営レストランでの食事対応(アレルギーや刻み食などへの柔軟な対応)など、事前相談でお互いのミスマッチを減らす取り組みを進めていきたいと考えています」

4. 浅草橋の街とともに:東京の穴場拠点としての可能性
鈴木社長の視点は、自ホテルにとどまらず「浅草橋という街全体の活性化」へと広がっています。浅草橋は羽田・成田空港から京成・都営浅草線一本でアクセスでき、秋葉原、浅草、両国、日本橋、銀座などあらゆる観光エリアの中間に位置する抜群のロケーションです。

―― 街の魅力と、バリアフリーをきっかけに来訪される方々へのメッセージをお願いします。
鈴木社長:「都内でビジネスホテル価格帯で泊まれて、30室近くもバリアフリー対応の広い部屋があるホテルはまだ少ないはずです。旅行や外出をためらっていた障がいのある方や高齢のご家族が、『浅草橋ならアクセスも良いし、安心して泊まれる』と足を運ぶきっかけになれば嬉しいですね。 神田川の屋形船や歴史ある問屋街、そして新しいカフェ文化が混ざり合う浅草橋の街を、誰もが楽しめる拠点としてベルモントホテルを活用していただきたいと思っています」
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■ 浅草橋ベルモントホテル プロフィール
所在地: 東京都台東区浅草橋1-2-8
アクセス: JR総武線「浅草橋駅」東口 徒歩2分 / 都営浅草線「浅草橋駅」A1出口 徒歩2分
総客室数: 78室(バリアフリー対応の改装客室を順次拡充中)
特徴・施設: 直営レストラン(「レストラン&バー ラコント」、「ステーキハウス柳鳳」)、館内宴会場、平面駐車場(福祉利用相談可)、羽田・成田空港直通アクセス
![]() ベルモントホテルの外観 | ![]() 歩道からゆったりとしたスロープが入口まで続きます |
5. 取材を終えて
「バリアフリー対応は完成形ではなく、現場でお客様の声を聞きながらアップデートし続けるもの」という鈴木社長の真摯な姿勢が印象的でした。ハード面の改装にとどまらず、客観的なデータ計測を取り入れ、ソフト面の優しさと組み合わせることで、誰もが寛げる次世代型ホテルの姿が形作られつつあります。取材にご協力いただいたベルモントホテルの鈴木社長、IKKELの落合さんと大森さん、本当にありがとうございました。

写真左から、大森さん、落合さん、鈴木社長、小川、松尾
写真:松尾深志 文:小川陽一












