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ESSAY //// Views-723

多摩川の鉄橋で



週刊連載エッセー 10月4日 (月曜日) 

ある秋の日の午後、私鉄電車を下り方面に乗りました。私の前の席には、赤ちゃんを抱っこしている母親。愛情いっぱいのまなざしで赤ちゃんを見つめています。電車は、多摩川の鉄橋を渡りました。川の流れにふっと学生時代に好きだった万葉集の歌を思い出しました。

「多摩川に さらす 手作り さらさらに 何そこの児の ここだかなしき」(多摩川にさらす手作り布のように、さらにさらに、何でこの子はこんなにもかわいいのだろう)という。
誰が詠んだかわかりませんが、千二百年も前にわが子へのいとしさを詠んだ親心と、私の前の母親の心とは、何も変わらないのだと思いました。

赤ちゃんが「あー」と声を出し、母親がほほえみました。


・イラスト/いなだ 牧子
著者・並木 きょう子/東京都在住。フリーライター。人の生き方を独特の視点で描く人物ルポ、軽妙なエッセイ執筆。著書にエッセイ「ごちゃまぜ同居行進曲/主婦の友社刊(テレビドラマ化)」「300字の小さな幸せレシピ/アップオン刊」ほか多数。
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※新しいエッセイは毎週月曜日に掲載します。
※8月23日号 長男が、大人の背丈になったとき
※8月30日号 食卓を片付けながら
※9月  6日号 庭のブドウの樹
※9月13日号 ある年の初秋、結婚披露宴で
※9月20日号 「お月さま」に祈ります
※9月27日号 「この枝を切ります」