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バリアフリーで旨い店紹介します!
第1回『本むら庵 荻窪本店』

 2011年~2015年にかけて、おとなの週末本誌で掲載してきた「帰ってきためんくい鈴木 バリアフリーで旨い店見つけます!」。おとなの週末という雑誌は、覆面取材で探した本当に美味しい店を紹介するのが特徴の情報誌ですが、なかでもバリアフリーに力を入れている店舗を、このコラムで数多く紹介してきました。おとなの週末のWEB版でも特徴のある店を掲載してきました。

 全49回の連載では美味しい店だけでなく、ホテルチェーンや有名神社のバリアフリー度を調査したり、プロ野球の野球場のバリアフリーの取り組み方なども取材・掲載しています。

 あれから7年がたち、当時の取材店のバリアフリー度がどうなっているのか? いまでも変わらず熱心に取り組んでいるのか? 当時、「バリアフリーで旨い店」をリサーチしてきたライター山岸朋央氏が、あらためてその味と施設の様子を取材して、やはりココはおすすめという店をご紹介します。

 今回、再取材に向かったのは、2011年2月に取材し、バリアフリー飲食店のお手本として連載第1回に取り上げた「本むら庵 荻窪本店」です。2023年3月に覆面で再リサーチしたところ、バリアフリーの施設はバージョンアップしており、今改めて紹介すべき店だと確信しました。

 それでは、まず2014年9月に公開したWEB版の記事をご覧ください。


バリアフリーのお手本店は大正13年創業の手打ち蕎麦屋のパイオニア


 めんくい鈴木率いる『チームめんくい』が、「バリアフリーで旨い店」を探し始めて早4年。記念すべき連載第1回目、2011年4月号に掲載された『本むら庵 荻窪本店』は、手打ち蕎麦屋のパイオニアを自負する大正13年創業の老舗ながら、店舗のバリアフリー化の先駆者でもありました。

 JR荻窪駅西口から徒歩8分ほどの閑静な住宅街に店舗を構える同店。20台分以上を用意した駐車スペースの店舗直近の位置に「車いす用枠1台分」を確保し、出入口前の段差を緩やかなスロープで解消しているのを見せられたときには、「バリアフリーのお手本のような店が荻窪にあるよ」という車いすの友人の情報に間違いがないことを確信しました。

▼店舗の隣には広い駐車場が完備されている

▼入口に設けられた緩やかなスロープ

 自動ドアの先に広がる店内は、車いすのまま利用可能なテーブル席がゆったりと配置され、通路幅も車いすやベビーカーなどもスムーズに移動可能な90cm以上。もちろん、段差は一切なし。奥には座敷席もありますが、こちらも足腰の弱くなった高齢者などに配慮して、テーブルと椅子が配置されています。

▼玄関を入ってすぐの席。奥には座敷席もある

 1998年の本店全面改築時にバリアフリー化を実現した同店ですが、その際に最も力を注いだのが、男女別の一般的な洋式トイレとは別に、厨房スペースを削ってまで造設したという「多目的トイレ」です。車いす対応トイレでさえ、路面店では非常に珍しかった90年代後半に、乳幼児のおむつ交換台なども設置した多目的トイレを造設するとは、同店のバリアフリーに対する意識の高さがうかがえます。

 ユニバーサルデザインのスプーンやフォークなども、当たり前のように用意している同店ですが、石臼挽き自家製粉にこだわる蕎麦の味もまた、誰もが満足できるものを、当然のように提供してくれます。蕎麦やラーメンなどの麺類をこよなく愛し、「めんくい」 の異名を持つ隊長も、そのコシと喉ごしには大満足。連載2回目以降、我々のバリ旨候補店調査の基準店となった同店は、老舗の看板に胡坐をかくことなく、味もバリアフリーも日々精進を忘れない手打ち蕎麦屋です。


それで今回の再覆面取材の結果は?
 

完璧な多目的トイレを実現


 初めて『本むら庵 荻窪本店』を覆面調査で訪れたのは、東日本大震災の1カ月ほど前でしたが、1998年6月に全面改築を行った同店舗は、創業前年の関東大震災や1995年の阪神・淡路大震災を教訓として、地中深くまで杭を打った地震に強い頑丈な建物としたこともあり、東日本大震災時は、営業中にも関わらず、お客とスタッフを無事に守り、お皿1枚落ちなかったと言います。

 もちろん、この全面改装時に整備されたバリアフリー設備も被害はゼロ。しかし、それだけで満足することなく、震災の半年後には、路面店ではほとんど見かけることがなかった『多目的トイレ』が、さらに改良されていたのです。オストメイト用の流し台(人工肛門・膀胱保有者で水洗シャワー付き)が新たに設置され、より完璧な多目的トイレとなっていました。

▼多目的トイレ。左がオストメイト用の流し台だ。右手前には乳幼児用のおむつ交換台もある

 
 同店の小張陽代専務取締役によれば、創業大正13年の老舗店には何十年と通う常連客が多く、最近は、加齢により車いすや杖などが必要となった人も少なくないと言います。
「でも、本むら庵ならバリアフリーだから何も心配いらないと、以前と変わらずにいらっしゃる方が多く、また、多目的トイレにはおむつ換台もあるので、お誕生日などのお祝い事で、親子孫の三世代でいらっしゃる方も珍しくありません」(小張さん)

 もちろん、めんくい鈴木が太鼓判を押した「極上のそばを追求してたどり着いた石臼挽き自家製粉の手打ちそば」の旨さは今も変わりませんし、鴨肉を油揚げに詰めた人気の「おきつね焼き」など一品料理をつまみに、コロナ禍でも昼呑みを楽しむ常連客も多いとか。

 障がいの有無や老若男女に関係なく、旨いそばや一品料理を楽しめる『本むら庵 荻窪本店』は、今もバリアフリーで旨い店のお手本でした。

▼開店後から職人さんがそばを手打ちする

取材・文 山岸朋央 構成 城新一

 

【店舗情報やメニューなどはこちらをご覧ください】
https://honmura-an.co.jp/

 


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