2025年10月に開催された「全国アビリンピック」のホームページ部門で金メダルを獲得するまでの軌跡を辿る連載、第3回です。今回はいよいよアビリンピック東京大会の当日編。初めて読む方は、ぜひ第0回からご覧ください。

 


目次


臨時出勤になった

前回の記事では「土曜開催なのに臨時出勤扱いにもならない、代休もない」と嘆いていましたが……。なんと臨時出勤扱いにしてもらえるとのこと! 総務の計らいで調整いただいたそうで、明後日月曜は代休になりました。つまり明日から2連休確定。オーさん、色々と騒ぎ散らかしてすいませんでした…。

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いざ会場へ

当日は、集合時間の30分前に会場(東京都小平市にある東京障害者職業能力開発校)に到着。

東京障害者能力開発校の外観
東京障害者能力開発校の入り口に立てかけられた、アビリンピックの看板。第23回東京障害者技能競技大会と書かれており、後援団体などが書かれている

まずは最低レベルの「開始前に会場に着く」というミッションをクリアでき、一安心。私は双極性障害の影響もあり、どうしても起床が安定しない時期があります。だからこそ「ここぞ」という日にちゃんと起床し、現地に着けるかは、それなりのプレッシャーであるわけです。後日談となりますが、上司から笑顔でこう言われました。

「いやー、会場の入り口でジュンさんを見つけた時が、なによりホッとしたよ」

そういうレベルでご心配をお掛けしていたとは。すみません…。

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競技が始まる

応援団と別れ、会場で受付を済ませてゼッケンを付け、自分の席に着きました。一冊だけ持ち込みが許可されている書籍をカバンから取り出し、心を落ち着かせます。

ラップトップPCが置かれたデスクに座り、ノートの中身を眺めている筆者の写真。ゼッケンを付けている

そこで、競技委員の方はこうおっしゃいました。

「はい、それでは皆さん、ご自身で作成した画像が入ったDVDを提出してください。こちらでサーバにアップしますので」

私は「持参していません」と伝えました。すると、

「え? 全部これ(両手でキーボードを打つジェスチャー)でやるんですか?」

と驚いた様子。私も動揺し、

「え、事前課題に掲載されていた画像は提供されますよね?」

と聞き返したところ、

「それは提供されますが……

とのこと。素材が提供されないと詰んでしまうので胸を撫で下ろしましたが、嫌な予感が脳裏をよぎりました。

「もしかして、画像を持ち込まずに競技に挑む者は、非常に珍しい存在なのかもしれない…」

 

私は「提供素材だけで勝負する」つもりで猛練習してきたので、一気に不安になりました。事前課題の資料に「自前の画像の出来栄えは評価ポイントとならない」と記載があったため、作る必要はないと思って作らなかったんですが…。ちなみにオーさんはしっかりDVDを提出していました。お互いどういうものを作るのか一切見せ合っていなかったので、オーさんが何を提出したのかわかりません。「僕は銀賞でいい」と言っていたのに、金賞を穫る気満々じゃないですか(笑)。

動揺している中、いよいよ開始の合図が来る……と思っていた矢先。競技委員の方が、含み笑顔でこんなことをおっしゃいました。

「皆さん、ダイバーシティ&インクルージョンのことなどは当然理解してきていますよね?」

皆にドスンとプレッシャーがのしかかります。でも私は、前回(第2回)の記事に書いた「事前課題のトラップ」のことを言っているのではないかと思いました。

身長の異なる3人が壁越しに野球を観戦するイラスト。4パターンある。「現実」のイラストはもっとも背の高い人だけが壁越しに観戦できている。「平等」のイラストは各自が1つの木箱に乗っており、そのことで2人が観戦できている。「公平」のイラストは各人の身長に合わせて木箱の数が調整されているため皆が観戦できている。「公正」のイラストは壁が金網になっているため木箱がなくても皆が観戦できている

そうだ、これはきっとユニバーサルデザインでいうところの「公平」と「公正」の違いまで踏み込んだサイトに仕上げてくださいね、というメッセージなのだろうと。その予感が合っているとしたら、自分に波が来ている! そう思うことにしました。

そして競技開始。合図とともに一斉にマウスやキーボードの音が響き始めました。

競技PCはノートパソコンでしたが、そこは想定内。狭い画面を有効活用するためのウィンドウ配置を決めて練習していたので、問題ありません。

早速メモ帳を2つ開いて(HTML用/CSS用)、Edgeで表示確認。この3画面が私の戦闘形態です。準備が整い、作業を開始しました。間もなく超集中モード、ゾーンに突入しました。

90分の競技時間は、きれいに使い切りました。練習の成果もあり「これまでで一番良いものができた」という手応えがありました。少なくとも、自分の中で「すべて出し切った」と言える完成度になりました。

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結果を待つ

競技は午前中に終わり、皆で幕の内弁当を食べながら閉会式まで待機することになりました。

広々とした食堂で、オーさんと筆者と応援団がお弁当を食べている様子

オーさんがポツリと言いました。

「……ジュンさん、僕はタイムオーバーで最後まで作りきれなかったです……」

私はタイムを測って練習することを勧めていたのですが、彼は「慣れないメモ帳でJavaScriptを書くのがあんなに大変だとは思わなかった」とボヤいていました。「あれさえ組み込めていれば、金メダルは僕の胸に輝いていたはずですよ」と遠い目をして呟くオーさん。と言いながらも目は自信たっぷり。その自信はどこから来るのでしょうか(笑)。負けた時の予防線を張っているのか…?

お弁当を食べ終わり、上司に「手応えはどうだった?」と訊かれたので、私はこう答えました。

「やりたいことは全部やれました。正直な話、あれが金賞じゃなかったら何が金賞なのか見てみたいところですが、見ることができないので残念です」

それを聞いた上司は笑っていました。どれだけ自信があるんだ、と思われたことでしょう。でも、これは本音でした。

閉会式まであと2時間ほどあるので、私が持参したボードゲームで時間を潰すことに。セ○アで買った百均ボードゲームを繰り返し遊びました。

筆者と同僚が小さなボードゲームを遊んでいる様子。ボードの上には2つのコマがあり、板のようなものが数枚みえる

具体的な製品名は伏せますが、まあ、なんというか、「コリドールそのものです。それが税込110円。しかもコンパクト。超絶コスパと言えましょう。思ってた以上に負けまくりましたが、なにより嬉しかったのは、「ボードゲームはいいけど、ルールを覚える手間が苦痛」と公言するオーさんが、重い腰を上げて一回だけ付き合って遊んでくれたことでした。

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そして閉会式へ

閉会式の時間が近づき、会場の建屋へ移動。いよいよ発表が始まりました。各競技の受賞者が順に読み上げられ、前に出てメダルを掛けてもらっています。とうとうホームページ部門の番です。

賞は金、銀、銅、努力の4種類。ホームページ競技の参加者は4名だったため、何かしらの賞はもらえる状況でした。まず努力賞が読み上げられます。自分でもオーさんでもない。よし。次、銅賞は……。これまた自分でもオーさんでもない。ということは、私かオーさんのどちらかが金賞だということ。私は祈りました。銀賞で自分の名前が呼ばれないことを……。

「銀賞は…、オーさんです!」

やりました! 私の金賞が確定した瞬間です。そのあと金賞で自分の名前を呼ばれ、会場の皆に拍手で迎えられて表彰を受けたことは、これまでの人生で最も輝かしい瞬間でした。

ホームページ部門の受賞者がメダルを授与されている様子

金メダルを掛けていただき、会場全体が称賛してくれる……。あれだけ考え、準備し、出し切って、それに結果が付いてきた。苦労が報われた瞬間でした。

そして「大勢の前で金メダルを授与される」という体験。そうか、メダリストはこの気持ちを味わいたくてまた練習を頑張るんだな、と。

金メダルのあと、キッズブーケプロジェクトの女学生から素敵な花束をいただきました。受け取るとき、どうやら小声で「ありがとうございます」と言っていたようなのですが、その声が裏返っていたらしく、後でオーさんにからかわれました。女学生からキレイな花束を手渡されれば、そりゃあ裏返ったりもするでしょうよ(笑)。

閉会式が終わり、応援に来てくれた皆さんから「おめでとう!」と言ってもらえたり、写真を撮ってもらったり。至福の時間でした。

オーさんの銀メダルと筆者の金メダルを並べて撮った写真

「地方大会で金賞だと、全国大会に出場することになるはず」という思考が脳裏をよぎりましたが、今は考えないようにしました。この瞬間を楽しもう、と……。

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念願のテルメ小川とサウナ

応援団と現地解散し、オーさんの車で念願の「小平天然温泉テルメ小川」に到着。早速お風呂へGO!しました。

ただ、肝心のサウナがどうだったかは…正直、記憶にないのです(笑)。というのも、オーさんと露天風呂で勝利を分かち合い、長時間しゃべり倒していたからです。でもいいんです、それで。今回の事の始まりはテルメ小川のサウナでしたが、今となれば大した事ではないんです。アビリンピックという名の、己の技能を競う大会に出場し、そこで勝利する。そんな瞬間に私を鮮やかな手際で導いてくれたオーさんには、感謝してもしきれません。

そして風呂上がりの生ビール! 

生ジョッキを手に、満面の笑みを浮かべる筆者

これが超絶うまかった! 応援に駆けつけた同僚がお祝いにとご馳走してくれたのですが、どうやらこの食事処はサントリーが認定する「超達人店」とのことで、達人が注いだプレミアムモルツだったのです。納得の美味さ……。アルコールが脱水状態の体を駆け巡っていく快楽に身を委ねました。

最高に気持ちが良くなったところで、私はずっと欲しかった重量系ボードゲーム「テラフォーミング・マーズ」を某有名ECサイトでポチりました。いわゆる「自分へのご褒美」というやつです。代休の月曜に届くとのことなので、届いたら早速ひとりで遊ぼうと決めました(注:最近のボードゲームは一人で遊ぶことができたりします)。いやー楽しみだ……。こうして僕のアビリンピック東京大会は幕を閉じたのでした。

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次回予告

金賞を獲ったということは、つまり、全国大会出場が決定したということ。次回は、全国大会へ向けて動き出した私に起きたことを中心に書いていきます。敏腕デザイナーさんとの出会い。そして「自分は何で勝負するのか」を自問自答する日々をお届けします。お楽しみに!


関連リンク

次回(第4回)の記事を読む
前回(第2回)の記事を読む
アビリンピック 公式サイト(外部リンク)
小平天然温泉テルメ小川 公式サイト(外部リンク)


文/ジュン

<自己紹介>
ハンドルネーム:ジュン
年齢:51歳
障害名:30代後半より双極性障害
趣味:サウナ、ボードゲーム
特技:すべてに感謝する姿勢(ふとコンビニの便利さに気付き涙したことも)
座右の銘:ゲームとは人生である